もるがな

レッド・ロケットのもるがなのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
4.0
最貧困版まんがタイムきららみたいな映画。舞台となるテキサスの片田舎、そこに暮らすホワイトトラッシュの貧困層の日常は壮絶の一語ではあるものの、作品全体を包むトーンは非常に軽快かつ明るく、それが貧困ぶりのリアルさとも相まって何ともいえない温かみに満ち溢れている。家族で固まり、飲食店では大声で騒ぎ、隣人でも下世話な話のタネにし、自身の欲を優先するさまなど、その辺の思考回路や行動様式含めて非常にリアルの一語であり、教育や教養などが通用しない世界の真実がそこにあるのだ。サラリと福祉の救済を否定する一方で、背景でがなりたてるトランプの演説が皮肉的かつ批評的でもある。

元ポルノスターの主人公の人間性は誰が見てもクズの一言で片付けられるものの、永遠に成り上がりと夢を追い続ける様はまさにアメリカンドリームに浮かされている感じがあり、抱く夢に貴賎はないのと同様に、そこに格差は存在しない。ざらついたカメラの向こう側では各々の登場人物が好き勝手に行動し、喋り、やかましく息づいている。眼差しは暖かくとも描写に手抜かりはなく、どうしようもない人々、に批評性やウエメセや憐憫なしにここまで対等に向き合えるものかと感服してしまった。最後のシーンは以前の『フロリダ・プロジェクト』と同様な感じで、この現実を凌駕して境目が曖昧になるのは映画に許された救済の一つであると同時に、見た人間に永遠に残り続ける幻影でもあるのだろう。
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