ぬ

ぜんぶ売女よりマシのぬのレビュー・感想・評価

ぜんぶ売女よりマシ(2017年製作の映画)
4.3
性産業について、法律や福祉の視点から知りたいと思ったので観てみました。
性産業の犯罪化みたいな部分について最近特に知りたかったので観てよかった。

観てみて、『ぜんぶ売女よりマシ』というタイトルの意味がわかった。
セックスワーカーの経験があることを理由に、こんなに人権を奪われるなんてひどすぎるわ。

というか、エヴァ・マリーを殺害した張本人の元夫があまりにクズすぎて、いちいち耳を疑うほどなのだが、福祉も法律も元夫に対してあまりにも緩すぎるし甘すぎる。
親権どうのこうのの話って、まずは「子供の安全、幸せ」という観点を最優先に考えられるべきだと思うのだが、福祉の欠陥やそれに伴う裁判所の判断のせいで引き起こされたと言っても過言でもない事件により、子供の心にも大きな傷を残す結果になってしまっている。
「セックスワーカー憎し」で、DV・薬物中毒など一刻も早く収監や処置が必要な状態の元夫が手遅れになるまで野放しにされ、護られるべき子どもの人権が後回しにされているなんて、本末転倒にもほどがないか?
百歩譲って、エヴァ・マリーから親権を奪うなら、元夫の親権はもっと早く奪っておかないといけないだろ、っていう。
「いくらセックスワーカーの存在が邪魔だからといって、そうはならんだろ、それはおかしいだろ」ってことが盛り盛りすぎて、なんとも腑に落ちなかった。

本音はどうなのかわからんが、建前的には「女性を守るため」「女性を助けるため」というお題目でセックスワーク規制を強めたのだろうに、結局それが要因になってこうして不幸な女性が生まれてるじゃん、ていう。
手段が目的化しているというか。
こうして犠牲が出た上でも、スウェーデン・モデルを見直すつもりはないのだろうか?
そもそも、「セックスワークに従事している女性は"正しい女性"ではないので、フェミニズムで連帯する必要はない」みたいに思われてるなら、「正しい女性とは何か」とか、職業や格差で女性を分断しようとしている時点で、それってもうフェミニズムではないしね。

セックスワークを「したくないのに、福祉で守ってもらえない状態にいるために、やらざるを得ない」人たちは、ちゃんと福祉で守って自分のやりたい仕事(せめてやりたくない仕事以外)をできるようなサポートを受けられるべきだけど、リスクを承知の上で主体的にセックスワークを選んで従事したい人がいる場合は、職業選択の自由なのだから問題ないのではないかと思うんだけどなぁ。

とはいえ、タラレバではあるけど、もしもセックスワークと同等にお金を稼げる他の仕事があったり、セックスワークで大金を稼がなくてはいけない理由(例えば、学費や子供にかかるお金など)が福祉で免除された場合でも、今現在セックスワーカーの人々はセックスワークを選択するのか、というところは気になる。
セックスワークってめちゃめちゃな肉体労働であり、さらに精神的なケアみたいな側面もあり、粘膜を接触させる仕事って時点でめちゃめちゃ感染症などのリスクも大きいわけで。
特に、セックスワーカーが妊娠する可能性のある人で、利用者が妊娠させる可能性のある人の場合、妊娠リスクもあるし、身体的にも精神的にも利用者側がワーカーに加害しやすい状況(というか、簡単に加害できてしまう状況というか)になるだろうから、うーん…
なんせリスクデカすぎだし、色んな人とセックスするのが好きなだけの人ならお金のやり取りなく無償で出会い系で知り合った人とかとセックスすればいいと思うので、個人的には、時間はかかるだろうが福祉などを充実させて「セックスワークしなくても生きられる社会にしていく」方向を目指すのがいいんじゃないかと思うのだけど、どうなんだろうな。
ぬ