ぬ

ファースト・カウのぬのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.5
やっぱ犬が魅力的な映画は名作である、本当に。
資本主義と、資本主義社会に求められる男らしさについて考えさせられる物語だった。

『ミークス・カットオフ』同様、ケリー・ライカートによる開拓時代の作品は、いわゆる西部劇では決して主人公になることのない人々をメインキャラクターとして描かれているところが面白い。

今作のメインキャラクターである貧しいシェフのクッキーと中国からの移民キング・ルーの友情がすごく微笑ましく、二人が嬉しそうにしてるとこちらまで嬉しくなる…
友情といっても、西部劇でよく描かれるような一緒に悪党を倒し、荒くれ者の集まる酒場で肩組みながらドンチャン騒いだりするようなマッチョな絆ではなく、静かに支え合い助け合うような、ささやかに喜びを分かち合い、寄り添い合う、相互ケア的な関係がとても心地いい。
ラストシーンを見てから、冒頭を思い出すと、哀しいやら美しいやらで泣けてくる。

資本主義や男らしさから取りこぼされた二人が、そんな社会で"成功"しようとすると、結局のところ、自分より社会的な階級の低いとされるものを搾取する―この作品では'メス'の牛のお乳を文字通り'搾り取る'こと―で、を文字通り搾取する形で資本主義に取り込まれるしかない、という構造の描き方が、上手いだけにしんどくリアル…

二人で小屋で過ごしていたときは、あんなに幸せそうだったのに。
そんな幸せを、自由に人間が織りなす創造性や、ささやかで心地よい営みを壊すのが、資本主義…憎い…
でも私は、彼らが資本主義に敗れたとは思いたくはない。
「資本主義に抵抗しこのシステムを打倒するものこそ、連帯し寄り添う彼らの間にあったような関係性なのではないか」という、人間性をあきらめない気持ちをくれるような、そういう優しさがあるよな、ケリー・ライカートの作品は。

ゆったりしたリズム感の中にもちゃんと緊張と緩和のリズムがあるから、冗長ではなく丁寧に感じ、最後まで眠くならずに見れました。(実は『ミークス・カットオフ』は途中で寝てしまった…ま、寝てもいいんだよ…またゆっくり観たらええんやで…)

あと牛やトカゲに触れるクッキーの手つきや、森を抜けるときにクッキーが引っかからないよう木の枝を押さえるキング・ルーの手つきなど、細かな仕草や行動を見せることによって、そのキャラクターがどんな人物なのかを表現する手法が丁寧で好きだな。

そういえば、なんか一時期"ファスト映画"が問題になったりしてたけど、ケリー・ライカートの映画ってファスト映画にしたら30秒くらいで終わりそうだよね。
ファスト映画で省かれたところにこそ監督の個性や魅力が出てるんだね、きっと…

ワタシ的には、ケリー・ライカートやアキ・カウリスマキ、オタール・イオセリアーニ、アッバス・キアロスタミ、などの映画は、あの静けさとゆったりさを求めて観るみたいなとこある。

最高映画でした。
ぬ