Yuki

ヴィレッジのYukiのネタバレレビュー・内容・結末

ヴィレッジ(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

あらすじ_
夜霧が幻想的な、とある日本の集落・霞門村(かもんむら)。神秘的な「薪能」の儀式が行われている近くの山には、巨大なゴミの最終処分場がそびえ立つ。幼い頃よりこの村に住んでいる片山優は、美しい村にとって異彩を放つ、このゴミ処理施設で働いているが、母親が抱えた借金の支払いに追われ、ゴミ処理施設で働く作業員に目をつけられ、希望のない日々を送っていた。そんなある日、幼馴染の美咲が東京から戻ったことをきっかけに物語は大きく動き出す‥‥。

感想_
凄まじい映画。
「やがて、夢から醒める」のキャッチコピーが120分過ぎた後に刺さる。
どの現(うつつ)が夢だったのか。
もはや、この120分が夢であってくれとさえ思う。でも目が離せない。
遠い田舎の寂れた町の閉塞感が漂っているのに、どこか東京での日常にも潜んでいる気がして目が離せない。



「邦画は面白い。捨てたもんじゃない。」心からそう思えた映画は「新聞記者」でした。それから、藤井監督の作品に魅せられ、映画はもちろんドラマや配信の作品なども追いかけてきました。そんな藤井監督の最新作。
さらに一昨年、また唸る作品に出会った。それがスターサンズ配給・河村さん制作総指揮の「空白」だった。
そんな藤井監督とスターサンズ、河村さんタッグの新作「Village」。
今回の作品も、「新聞記者」や「ヤクザと家族」と並ぶ傑作で、日本社会特有の関係や風習の中に潜む闇を切り出している。
いや〜、藤井監督は本当に繊細だが根が深い、そんな日本の問題を炙り出すのが上手い。

この作品は能の演目、「邯鄲」がベースになっている。
簡潔に伝えると、宿屋で眠っていたら、あっという間に50年の人生を過ごしていたが、それはすべて夢だったというお話だ。
実際、映画120分すべてが凄まじい。
幸せな瞬間も地獄のような瞬間も、どれが夢なのか、どれが夢であってくれと願うべきものなのか、そしてどこが一体夢の始まりだったのか、受け手の切り取り方によって感じ方が変わってくる。

美しい自然広がる、村の神社の真上に建てられた、真新しいゴミ処理場を舞台にし、日本の伝統である能、この村の古くからの風習である祭りを絡ませながら話が進んでいく。

閉鎖的な村社会は、俯瞰して捉えると日本社会そのもののようにも思える。
思ったことは言えず暴力に抑圧される姿は、メディアによって葬られる闇のようにも思えてくる。そしてそれを若者が正義だと伝える様は、まるでSNSの台頭により溢れ出す真実のようだ。
祭りの日、村人たちが揃って能面をつけ、神社に向かう様は、通勤ラッシュで疲れ切ったサラリーマンの列のようにも見えてくる。
大勢の無主張な者たちは無自覚に罪に加担し、それを煽っていることも時にはある。

プロミシングヤングウーマンを観たときにも、同じようなことを思った記憶がある。
大勢の群衆は個を消し紛れ込み、マジョリティの一員となるがその意思こそが誰かにとって憎むべき存在になるかもしれない。それは無自覚な罪だ、と。

また、風習は繰り返されるように上から下に受け継がれて行く。
暴力の対象、目の敵にされる対象…。それはいつも被害者の意思とは関係なく、加害者の気まぐれに始まるものだ。
"生贄"という文化も、形を変えてまだ現代に息づいているのかもしれないと思わせられる。

そして自分もその中に飲み込まれて行く。
あんなにされて嫌だったことをいつのまにか自分もしている。
どんどん取り繕うものが増えてきて、脳面のような顔を外せなくなる。

この映画のなかで一番印象的だったのは、美咲の家での重要なシーン。
壮絶な状況がワンカット長回しで撮られているのがとてもこの状況の緊迫感を表していた。

個人的には、鏡が映画に出てくると何かしらのモチーフではないかといつも気になるのだが、今回も4回ほど出てきた。
果たして何を表していたのか、そこまで読み解けなかったので、これから観る方にはそこにも注目してほしい。

また、作品はもちろん素晴らしかったのだが、栄枯衰退、絶望と希望を味わう主人公の優演じる、横浜流星の目の演技も素晴らしかった。
微細な表現も見事に表し切っていた。

歴史を繰り返すこと、新しくなっていくこと、どちらが良いのか。

自分の状況に屈することなく、変えていくためには世の中をどう捉えれば好転していくのか。

閉鎖的ななかでも、私たちは自分の頭で考え、生きていく術を見つけていかなければならない。

天国でも地獄でも、これが夢だとしても、時間は終わることなく続いていく。
Yuki

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