Ryoma

ヴィレッジのRyomaのレビュー・感想・評価

ヴィレッジ(2023年製作の映画)
4.4
冒頭の少し不気味で不穏さをも感じさせる能の舞・戯曲に載せて切り替わる連続カットが不気味で恐ろしさもあり、それを経て“village“というタイトルバックが出るまでの流れが途轍もなくカッコ良い。ここで一気に引き込まれたし、やはり“藤井道人“という監督は日本映画界でも稀有な存在だなと改めて。
一種のテーマとして、コロナ禍を経てより鮮明に浮き彫りになった現代社会における人間の生き辛さ、世の中の残酷さ、不平等さ、やるせなさが大きく描かれていた気がする。それが社会派の中にヒューマン要素やサスペンス、恋愛など様々な要素を組み込んである精緻な脚本や一筋縄ではいかないストーリー展開、シーンごとに表情・声のトーンを中心に静と動をこれでもかと上手く分けていた演者さんらの渾身の演技、スタイリッシュなカメラワークなどあるゆる側面で映像化されていたものだから、某映画祭に出品されている優れた洋画を観ているかのようだった。演技に関しては、特に横浜さんの演技が秀逸で後半にかけてがさらに凄まじかった。
劇中登場する能という存在などの伝統的で後世にも語り継がれるべき良き産物と、古いしきたりとして暗黙に蓋をされてきた悪い産物が対照的に少し皮肉っぽくシニカルに映し出されている気がして、余計に強烈な衝撃を受けた。
閉鎖された村落の闇、見てみぬフリをする住民、社会の不条理、人間の愚かさ・身勝手さ…など、人間のいわゆる汚いところを剥き出しに描かれていた故、陰鬱とした気持ちになりながらも現代社会で実際に起きているのだと思うとしっかりとその現実を受け止めなければいけないんだと強く感じたし、忘れることなく留意しながら生きていきたい。
本作を経て、埋もれてしまい目に入らないという理由で託けているだけで、日本に限らず世界各所で目を背けあやふやにしてきた様々な問題が顕在しているんだなと。そして、人は誰しも少なからず自分に都合の悪いことは隠そうとしたり嘘をついたりするものであり、そうそう純粋で綺麗に澄み切った存在ではなく、無力さと残酷さを兼ね備えているんだなと痛感した。一方で、辛い思いをした人は同じ経験をした人の気持ちがわかることのような、不完全な存在であるが故の美点も確かにあるんだと信じていたい。
藤井道人監督作は、『余命十年』、『新聞記者』、『宇宙でいちばんあかるい屋根』がかなり刺さったが、本作も個人的に心を打たれる場面が多々あり、かなり印象に残る作品になった。劇中“真の正義“とは何なのか?そのためにできる選択や行動は何なのか?という疑問を問いかけられている場面を随所に感じ、普段あまり深く考えることは少ない、自分の道徳心を揺さぶられながら観ることができた。今後も彼の作品は追い続けていきたい。
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