翼

ウエスト・サイド物語の翼のレビュー・感想・評価

ウエスト・サイド物語(1961年製作の映画)
4.6
新盤を観てレビューしようとするも膨大に想いが込み上がり溢れてしまった。原作愛と新作愛を混同しない為に、人生の折に何度も観たかの名作のレビューに改めて筆をとる。

『マリア、大きく叫べば音楽のよう。小さくささやけば、祈りのよう。』
本作で最も好きな詩。演奏と祈りの意味を持つ「play」のWミーニングの韻。たった一目で恋に落ちた女性の名を初めて知り、溢れる感動は音楽のように壮大で、その名が持つ意味は聖母のように荘厳でもある。トニーの予感の到来でもあり悲劇の始まりでもある、正にウエストサイドストーリーの枢軸を成す詩。この想いの行く末は『tonight』へ紡がれる。

ロミオとジュリエットよろしく敵対する双方に身を置く二人が出会い、想いを寄せる。階段の上下階に位置する二人も、月の光が落とす影は寄り添うように並んでいる。そこには生まれも階級の差もなく、この夜は誰しもに平等に光を齎す。
この特別な夜への想いが、それぞれの思惑が交錯する『tonight(quintetto)』に繋がっていく。

ミュージカルとして完成された緩急。
特に体育館の出会いは象徴的。眼と眼があった瞬間、騒がしい喧騒は静かに鎮まり二人だけの世界になる。手が触れ合わない、距離を保ったままのダンス。初対面の二人の、一目惚れと戸惑いと少しの警戒と、心の歩み寄りを表現している。恋は盲目。敵対するダンス対決の体育館の最中でも二人の心は遠く離れた場所にある。
通常、成立するはずのない『MAMBO!』からの緩急が成立するこのバランス感覚なんなんだろう。
後半の戯曲ならではのじっくりと描かれる悲劇のパートは永く辛い。だが本作で描くべきところは此処。10代の私には冗長にさえ感じたが、改めてこの救いのなさと、それでもこの夜が明ける希望の光のようなバイオリンの旋律で綴じられる本作の後味は唯一無二。
ミュージカルの金字塔としてどれだけの作品に影響を及ぼしてきたのか、想像に思いを馳せる。
翼