Rick

窓辺にてのRickのレビュー・感想・評価

窓辺にて(2022年製作の映画)
5.0
 ずっと分からないものがある。最も身近で、最も長い時間を過ごして、最もよく知っているはずの存在、そしてその意識と感情。もはや他者のことなんかは、分かるはずもないと割り切っている。それすら分からなかった時よりは、きっと楽になっているし、視野も広がっているはず。でも他者との関係の中で立ち現れる自分のことだけは、どうしても分からない。恋とか嫉妬とか、形も定義もあやふやな物をどうして皆はアプリオリなものとして、所与のものとして受け入れられるのか。そして自分にはそれがよく分からないままなのか。自らが欠けているのか、足りないのか。別に何かから目を背けたいわけでもなく、普通とされている物に中指を突き立てたい訳でもなく、何かから身を守りたいわけでもなく、何かを諦めたわけでもなく、自信がないわけでもなく、ただ分からない。そんな「分からなさ」を、否定するでもなく、肯定するでもなく、ただ暖かく見届け、優しく包み込んでくれる。今の自分に合わなくて必要のないものはどうしたって存在するし、自分からは到底完全なものに見えなくても、完全だと見なす人もいる。どうしようもないことをどうにかすることも必要かもしれないが、どうしようもないことをどうしようもないまま、正直に受け入れて咀嚼して、どうしようもないなぁと呟く。それもまた必要な作業のような気がする。
 この映画は、きっと多くの人にとって凪のような映画だろう。何も起こらない。会話があって、心が繋がったような、繋がっていないような、何かが解決したような、何も解決していないような、意味のあるようで、もしかしたら意味のないような。でもその凪の時間を、凪のまま体験して、一瞬だけかもしれないけれども何処か救われた気がする。それはきっと、とても尊いことで、何物にも変え難い美しいもので、大変贅沢なことだろう。そんなことを、つらつらと考えた。
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