鹿伏

カラオケ行こ!の鹿伏のレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
4.3

「ドアホ!」

野木亜紀子、再構築がうますぎる
マンガという媒体と違ってコマ間の跳躍ができないぶん実写化にあたって肉感がつくよう細部や設定を変えていくのは当然だけど、映画化にあたって付け足された、映画を見る部と掛け持ちしてる+紅の英訳や歌詞に対しても解釈を割いてる+和田くんのキャラクターとして掘り下げの3点が抜群に効いてる。原作でも描かれていた、肉体の成長によって否応なしに声変わりしてゆく(努力して培ってきたソプラノではいられない)その不可逆性を、巻き戻しができないビデオテープを使って構造をクリアにしてゆく美しさたるや。白熱、カサブランカ、三十四丁目の奇蹟、自転車泥棒……カサブランカの「君と幸せだったパリの思い出だけで俺は生きていける」って狂児やん……君の瞳に乾杯

もともと大人びたキャラクターの聡実くんが身体を伴ったことによってなおのこと中学生のように見えなくなるときもあり、その対極としての和田くんという存在・描き方も大変よかった。年相応の、あふれ出てくる感情の抑制がうまくできず和田くんが他者に迷惑をかけてしまう場面がたびたび描かれる。それは翻って聡実くんにもそういう、叫び出したくなるような衝動や感情がある子どもであるということで、鶴の傘を買ってこられたときの「もうええわ」と諦めるような彼が狂児に向かって「ドアホ!」と訴える場面がすばらしいものになっていた。

あと和田くんをしっかり描くことによって、部活という替わりがきいてしまう(たとえ3年やってきて、部長で、ソロパートであっても逃れられない)システムよりも狂児の代わりに紅を歌うという替えがきかない瞬間を聡実くんは選んだということが明確になる。そこで効いてくる紅の再構築(ああやって訛りバリバリで訳したというふたりだけの記憶の強さ)よ。う、う、うますぎる〜〜!!

雨でモンモンが透けたシャツで中学生の前に現れたことやら「聡い果実で聡実やな」など、ちょっとそちらの方向に振るぞ!が強かったけども…エロ漫画の導入か??
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