鹿伏

英国式庭園殺人事件の鹿伏のレビュー・感想・評価

英国式庭園殺人事件(1982年製作の映画)
4.4
「見たものを描くのであって知るものを描くのではない」

動く絵画!
バチっとキマったシンメトリーで静謐な画作り、17世紀イギリスの豪華な庭園と貴族たちの衣装、白と緑の鮮やかなコントラストのなかで不意に現れる異質感のある赤(ネヴィルのソファ、赤いパンツの従者クラーク、ザクロ)、油断しているとまたたくまに置き去りにされる情報量の多いセリフ。脳がスパークする感じサイコ〜!!全体を通して絵画!って感じなのに、いっさいの説明がない全裸の道化だけがいわゆる映画っぽい生身の動きをしてるのも(この時代のサブカルだ〜!!)があってよかった

キザったらしくて、でもちょっとアホな気鋭の若手青年画家ネヴィルが「見たものをそのまま描く」ことに固執したゆえに、絵画に意図していない寓話性が生まれてしまい、さらにそれらのプロトコルコードを理解できないゆえにガンガン証拠として利用される…ウワ意地悪だね〜!という感じ

相続ってたいへんなんだね〜
イギリスの相続問題モノといえば100年くらい時代がくだってオースティン『高慢と偏見』、あれはジェントリ階級・土地持ち・財産あり・相続人がいない娘たちの結婚に焦点があたってゆくけど、本作1694年8月は88-89年に名誉革命が起きて議会が力を持った結果イングランド銀行が設立(7月)され、それに伴った金融法の改正によって女性の所有地管理や財産の相続が承認された年、つまりハーバード夫人ことヴァーニジアにも父から継いだ屋敷や土地といった財産相続の権利が生まれたという……

動機
・ノイズ
公証人でヴァージニアの元婚約者、いまだにヴァージニアのことが好き。ハーバードが死んだら財産とヴァージニアを手にいれる機会がやってくるかも。

・タルマン
ドイツ人の娘婿。サラとの間に生まれる息子が相続人はなっているがセックスレス気味で子どもはいない。故郷から幼い甥を引き取って家庭教師やメイドにドイツ人を雇ってイギリス風にならないよう口すっぱく教え込んでいる。子どもができないまま養子にできればハーバード家をタルマン家として乗っ取ることができる。

・シーモア&双子
ハーバードと仲のいい大地主。ハーバードが死んだら屋敷や土地を買収するチャンス。

・ヴァージニア
ハーバードの夫人。控えめな性格で、ハーバードの興味は屋敷→庭園→馬→夫人の順と言われるほど抑圧されていた。生まれ育ったはずの家や土地に対してなんの権利も持つことができなかったが、法改正により自らにも相続の権利が生まれた。ネヴィルに絵を描くよう懇願。

・サラ
ハーバードとヴァージニアの娘。タルマンとはセックスレスで子どもに恵まれる兆しがない。ネヴィルに絵を描くよう懇願。

全員が犯人!ということも当然あるだろうけど、私が思う犯人はヴァージニアと娘のサラ、男手がまったくないと不可等だろうから従者のクラークでここはひとつ。


ピーター・グリーナウェイを好きだと公言してるヨルゴス・ランティモスが「女王陛下のお気に入り」で、この物語のすぐ後の時代(オレンジ公ウィリアム3世崩御後の1702年)に即位したアン女王を描いたのもなんかグッとくるね。
鹿伏

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