イルーナ

ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界のイルーナのレビュー・感想・評価

2.2
【ポリコレよくばりセット、しかしてその内容は……】

製作費1億8千万ドル、宣伝費9000万ドルに対し興行成績7350万ドルという、レジェンド級の大爆死をかましたことで映画界に衝撃を与えた問題作。
昨今ではポリコレへの過剰な傾倒、配信落ちさせられるピクサー作品など迷走を重ねるディズニーですが、『バズ・ライトイヤー』に続いてこれの大爆死が第三次暗黒期の到来を決定づけたと言っても過言ではないでしょう。
さらに最近報道された話によると、本作は取締役会のメンバーから「ディズニーの品質基準を満たしていない」と言われていたことが発覚。
つまり、そもそも劇場公開できるレベルのクオリティじゃなかったということ。
フロリダの「ゲイと言うな法案」に対し静観を決めていたらLGBTQコミュニティの怒りを買ったため、いい顔しようとこれを公開に踏み切った結果ああなったという、救いようのない裏側。
おかげでCEOのボブ・チャペックはわずか3年で更迭され、前任者のボブ・アイガーが復帰し今に至る。
いやー、闇深いですねー……

このように曰く付きの本作。ではどのようにポリコレに傾倒しているのか。
まず登場人物は、白人と黒人のハーフでゲイの息子!アジア人の大統領!前足が一本欠けた犬!
「え?」と思った人も多いでしょう。どれか一つだけなら現実的ですが、ここまで詰め込まれると不自然すぎる。
さらにそれらの要素がどのようにして物語に関わってくるのかと言うと、これが物語上全く機能していない。
ゲイの息子はマイノリティであることに葛藤するのかと思いきや、友人たちはもちろん、父親、そして長年異世界で暮らしていた祖父ですらあっさり認めてしまう!
しかもその祖父というのが生涯を外の世界への探求へ捧げた偉大なる冒険家かつ脳筋キャラで、普通に考えたら昔気質の価値観のはずなのに、ここだけやたら現代的なのが余計に不自然。父親もあれだけ農家継がせようとしてたのに、なぜここだけは寛容なんだ?
片足のない犬も、どうして片足を失ったのか不明な上何不自由なく走り回っているので、これまた物語上まったく無意味。
おまけに活躍どころか何度も船から落ちそうになって……というか1回本当に落ちて足引っ張ってるし、唯一まともに活躍できそうな場面も結局、原生生物スプラットに取られていたし……

これだけ不自然な要素がいっぱいくっついていると話に集中できないという意見もありますが、正直それ抜きにしてもメリハリがないストーリーでパッとしない。
何というか、ノルマだけを無難にこなしてるみたいで、心に引っかかるものがないままさらっと観終えてしまったという感じです。展開がほぼ親子喧嘩→原生生物の襲撃の繰り返し……
一見王道に見えても、製作者のこだわりが見えたり、心に爪痕を残す要素があるからこそ、印象に残るというのに。ただでさえ絵的に華やかさやキャッチーさがないからなおさら。
一番売りにしないといけない異世界も、種明かしは素晴らしかったと褒めてる意見もありましたが、これまたやはり印象に残りづらい。
奇抜でけばけばしいだけで、畏怖とか神秘性があまり感じられなかった。
スプラットは動けば結構可愛いんですが、あの無機質なキャラデザだとグッズにしても売るのは厳しいでしょう。
あと探検に参加するメンバーも、家族以外ほとんどいらなくね……?という感じでした。息子に対しやたら馴れ馴れしい隊員は一体何だったんだ。
大統領は比較的キャラが立っていたけど、ぶっちゃけ母親と性格丸被りです。というか女性キャラは男勝りじゃないと出せない風潮になっているんでしょうか。
カードゲームのくだりも、あれ何だったんだ。周りの生き物と上手く共存しようとか言ってたけど、やはり機能していない。
そして本作はオチも酷くて、生活インフラとなっていた電気エネルギーを実らせる作物の正体が実は世界を蝕む病原菌だったので根絶します!
代替エネルギー?ないけど一年でなんとかなったよ!という、あまりにも安直なもの。
父がもたらしたエネルギー革命が根底から否定されたという顛末なのに、何ハッピーエンド面してんの?!もうちょっと葛藤してよ!

とりあえず、後の世では「時代の徒花」と呼ばれてそうな作品だなと思いました。
イルーナ

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