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ノット・オッケー!のRenのレビュー・感想・評価

ノット・オッケー!(2022年製作の映画)
4.0
2022年新作映画の大穴はこれで決まり。多分 年間ベストにも入れる。もはやSNSや承認欲求というテーマ自体に新鮮味が無くなってはきているが、様々な仕掛けやチューニングによって新鮮に楽しめた。

1人の男性に振り向いて欲しくてフォトショでパリ旅行を偽装しインスタに投稿、時を同じくしてパリではテロが勃発。彼女はテロからの生存者と自らを偽り、一躍インフルエンサーとしての地位を獲得していく──。

まず主演のダニー役のゾーイ・ドゥイッチの配役センスが素晴らしい。冒頭から不謹慎発言のオンパレード、目線のやり方や表情の全てが観客をイラつかせる。この人は何かやらかす、という地盤の固め方がパーフェクト。
実際に彼女は承認欲求モンスターと化していくのだけど、ここまでフォロワー数やいいねに依存した空っぽな人間を具現化できるのかと思った。彼女が紡ぐ言葉が悉くスカスカで、Twitterやインスタにいる薄っすい いいね稼ぎ自己啓発アカウントが服を着て歩き出した感動がある(無い)。

見方によっては確かにコメディだけど、全てのギャグ(?)が現実に確実に起こっているはずだと確信できることのみで成り立っていたのも良かった。ドキュメンタリーのようにもならず、かと言って『ドント・ルック・アップ』のような皮肉MAXのブラックコメディにもなっていない絶妙なラインの語り口でSNSネイティブを突き刺していく。
それでも画面はずーっとカラフルにポップに、『プロミシング・ヤング・ウーマン』のような「映える」色彩設計になっており、やはりこれもSNSを描く映画のアプローチとして成功していた。コロコロ変わるファッションも見所の一つ。

最終、炎上したのは全部自分のせいだろ、とバッサリ切り捨てる清々しさも信頼できる。罪を犯した人間の善性にスポットを当てたり変に美談にしたりせず、もはや映画内では救済の場すら与えてもらえないままダニーは地獄に送られる。実世界で炎上した者(インフルエンサーやYouTuber)の対応を思い浮かべながら、その後の物語は観客各々で考えろと言わんばかりの潔さ。この瞬間に明確に物語が現実と繋がる。
彼女へ誹謗中傷を浴びせる一般市民たちにも断罪は訪れない。全てが野放しのまま物語が閉じられる。
「身から出た錆」「自業自得」。これだけの話と言ってしまえばそうなので捻りの無い話ではあるが、これをオリジナル脚本でポップにかつ冷徹に語り切ったのが偉い。ちゃんと作られる意味のある映画だった。

一つだけ、ダニーのあるスピーチの言葉だけは本心から出た言葉だと信じたい。それでも彼女の嘘を知っている我々からしたらそれすらも空っぽに聞こえてしまう、というのはそもそも人間が本能的に抱える病理か。21世紀のオオカミ少年として観ても面白い。Z世代のイソップ童話。

その他、
○ 冒頭の注意喚起テロップで、見たことのない文言が出てきた。「この物語はフィクションです」をここまで皮肉を効かせてで表現できるかと感心する。そんな意図はなく、単にディズニー側のリスクマネジメントなのかもしれないけど、やっぱり皮肉っぽく見えてしまう(笑)。

※中盤から後半に差し掛かる辺りの演説シーンが、先日奈良県で起きたテロ事件を想起させる可能性あり。ご注意ください。
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