akihiko810

エゴイストのakihiko810のレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
4.5
「僕は愛が何なのか、よくわからないです」
鈴木亮平主演のゲイ映画。

14歳で母を失い、田舎町でゲイである自分の姿を押し殺しながら思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、自由な日々を送っている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである母を支えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の母も交えながら満ち足りた時間を重ねていく。亡き母への想いを抱えた浩輔にとって、母に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし2人でドライブに出かける約束をしていたある日、何故か龍太は姿を現さなかった。

この映画はすごい。
物語前半は、ゲイ主人公の「恋愛」を性描写を交えて描いた「ゲイ映画」なのだが。物語後半はテーマが転調し、「これは愛なのか、施し(エゴ)なのか」という「愛とはなにか」を問うような作品であった。
主人公が、死去した恋人の母に「これは僕のわがままですから」と生活費を渡そうとするシーン。本当になんというかいたたまれない気持ちがした。お金を「渡される」母の不甲斐なさ、恋人が亡くなっても今までのような支援をしないと自分の気持ちの整理がつかない、とでもいうような浩輔。本作屈指の場面だろう。

本作で見事なのが、やはり役者陣。
鈴木亮平が上手い役者なのは知っているが、ここまで存在感のある役者なのか、と心底感心した。ふとしたした瞬間に出る「なよっと」した仕草が、本当に自然で違和感なくできるのがすごい。
そして母役の阿川佐和子。役者としてもこんなに包み込むような存在感があるとは。
ドキュメンタリータッチの撮影で、俳優陣たちの存在感がまさしくそこに「実在している」。

本作はゲイ映画であるが、それ以上に、物語後半の「愛とは何か」問うテーマの転調があったことにより、物語に深みが出て、性愛だけではない、もっと普遍的な「愛と施し」を問う傑作となったと思う。
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