Rick

そばかすのRickのレビュー・感想・評価

そばかす(2022年製作の映画)
4.1
 他者への想像力ほど、持つのが難しいものもない。誰もが、自分の知っている言葉や感情でしか世界を認識できないからだ。だからと言って、自分の認知で理解できない人が存在していないわけではない。むしろ、そこに厳然と存在している。それをどう感じるだろうか。怖いとか、自分の知っている世界で染めたいとまでは思わずとも、善意からであれ、なんとか自分の土俵で語ろうとしてしまうだろうか。それも仕方のないことなのかもしれないけれども、どうかそれはそのままで。無理に理解も共感もしない、そのまま否定も肯定さえもしない。そういう向き合い方もあっても良い気がする。
 恋愛が斯くも当たり前になってしまっていると、その感情のない人はマイノリティにならざるを得ない。「恋愛感情がわからない人」である。ただその感情がないだけなのに、「わからない」になってしまうのも、「わかる」ことが前提であるかのようでどうにも居心地が悪い。わからないなりに生きているし、人のことは別に嫌いでもないし、他者の幸せはただ祝福したいし。でも「わからない」人になってしまう。劇中では「わかる」人のことを特段悪役としては描いていないけれども、微かにキリキリと締め付けるような主人公、蘇畑佳純の痛みは嫌というほど伝わってくる。途中からは、もう頼むからそれ以上傷つけないであげてくれと祈るような心持ちである。
 今作の個人的な心地よさとしては、いわゆる「アロマ・アセク」という言葉が出てこなかったことにあった。無論、連帯という意味では状況に名前をつけた方が良い部分もあるが、名前をつけた瞬間に失われてしまうグラデーションの途中の段階もあると思う。今作のような、ぼそぼそ声の訴えもまた、見過ごされてはならないだろう。
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