社会のダストダス

2つの人生が教えてくれることの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

4.5
リリ・ラインハルト、5カ年計画マルチバース

2022年もすでに数多生まれた量産型Netflixオリジナル作品のなかでも、かなり好きな作品になった。時々こういう作品が来ると毎月の納税が報われた気持ちになる。Netflix作品だけに絞って考えるならば、今のところ年間ベストかもしれない。基本的に観る作品を選ぶときは制作会社や監督よりも役者で選ぶことの方が多いので、毎月のようにこの手の作品をリリースしてくれるネトフリ様とは今後も蜜月な関係を保っていきたい。

『リバーデイル』などのリリ・ラインハルト主演。そのうち観ようと思っていたドラマがいつの間にかシーズン5とかになって、手を出しづらくなるよくあるパターン。リリ・ラインハルトは『ガルヴェストン』で少し観たことがあるけど、ブリタニー・マーフィーに雰囲気が似ている気がする。主演作品は初めて観るけど底抜けに明るいノリも、憂鬱な表情もとても画になる、3つ目の時間軸で私とも結婚してほしい。

大学卒業の夜のパーティで体調に異変を感じ妊娠検査薬を使うナタリー(リリ・ラインハルト)。もしやあの時のワンナイトが種を宿してしまったのか、それともコンビニの寿司があたっただけなのか。運命の夜から分岐するナタリーの5カ年計画と想定外が展開される。

予告編などの印象からコメディ寄りの作品を想像していたけど、今まであまり観たことがないタイプのヒューマンドラマ。アニメーターになる夢を叶えるためにロスへ旅立ったナタリーと、妊娠して地元に残り子育て推するナタリーの二つ人生が同時進行で繰り返されながら、ときには同じ画面の中でも展開される。面白いのはどちらのストーリーも本筋のまま進行していくところ。

最初のうちは将来の明暗が分かれたナタリーの当初の気持ちを反映してか、画面が暖色と寒色で区別されていたような印象を持ったけど、中盤以降はどちらのストーリーかを判断する基準としてはあまり意識しなくなった。夢に直進した道でも壁にぶち当たるし、子供を産む選択をした場合もそれまで想像しなかった発見がある。一応髪型でどちらのナタリーか区別されるのであまり混乱はしなかったが、どちらの人生も山あり谷ありなので、注意深く観ていないと少し入り組んでて複雑かもしれない。

5年間という一つの区切りの期間の設定など、近年日本で流行った『花束みたいな恋をした』や『ちょっと思い出しただけ』みたいな映画のハリウッド式のようにも感じた。実際にはそれらの作品とは全然似てないけど、Netflixでよく見かけるこの手の作品は、アメリカ人にはそういう映画を観る感覚なのかもしれないと思った。キャリア街道まっしぐらな方のナタリーが「子供を育てた経験がある?」と聞かれて、そんな馬鹿なというノリで返して、片やママになったほうのナタリーは産後鬱という構図が面白い。

中盤の会話で「アニメを実写化することは、前の晩の夢を人に説明するようなこと」という例えがしっくり来た。『花束みたいな恋をした』で実写版『魔女の宅急便』の存在を皮肉るくだりは、嫌いな理由が特に明言されずモヤモヤしたのだけど、本作の会話からなら『千と千尋の神隠し』を昨日見た夢のように説明されたら意味分からんから実写化してはいけないということがはっきりしていて分かり易い。

二つの時間軸でほぼ出づっぱりのリリ・ラインハルトの魅力爆発。ガハハハッ!っていう豪快な笑い方が可愛くて癖になる、あとシンプルに顔が好きです。子育てパートに登場する彼は観たことがある気がしたけど、『トップガン・マーベリック』のファンボーイらしい、確かにそんな奴いた。ナタリーの父親役にはルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソンが兄弟だというのを最近初めて知った、髪型同じにすれば似ているのかも。

異なる苦難の末に最後に二倍の幸せ、それぞれがベタな着地だとしても、この幸せのハッピーセットは新鮮でいい。どちらの人生を選んだとしてもそれが正解になるかは、自分の努力(と運)次第でその決断に自信を持ちたい、結局は自分が振り返って納得するかということが大事か。ストレートにポジティブな余韻が心地よく現状下半期ベスト候補。