社会のダストダス

インフィニティ・プールの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
3.5
趣味が悪くて、良い変態映画でした。

ブランドン・クローネンバーグってもしかしてと思ったら、やっぱりちょっと前に観た『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』とかのデイビッド・クローネンバーグの息子さんなんですね。どういう教育受けたんですか…

犯罪を犯しても外国人は自分のクローンを作って差し出して処刑させることで罪を免れることが出来るという、トンデモ治外法権が認められる島を舞台にしたスリラー。

アレクサンダー・スカルスガルドとミア・ゴス主演。老いたセントバーナードのようなアレクサンダー兄さんと、狂犬病のチワワみたいなミア・ゴスちゃんの対比が強烈。

アレクサンダー・スカルスガルドはその図体とは裏腹にガラスのメンタルを抱えた男が良く似合う。作家の肩書を持つも財政面で妻に頭が上がらなかったり、ミア・ゴスちゃんに彼のアレクサンダーをしごかれるシーンなど、常に他人にイニシアティブを取られる。終盤で調子に乗ってしまうシーンの返しがとても痛々しい。

ミア・ゴスちゃんは『X』シリーズでもハジケ足りてないのか、今回も強めの顔面にナイスバディと金切り声で大立ち回り。『パージ』の世界に行ったら一日で全ての犯罪を犯しそうな危ない人を演じている。

アホな犯罪いっぱい犯して、死に方大喜利みたいな展開になるのかと思ったけど、そこはまあまあお上品にまとまった感じ。クローン技術の仕組みとか、島の司法適当過ぎるだろとかの疑問にはあまりメスを入れず、繰り返し自己を消費することでの道徳心の倒錯、自身の正統性、自分を客観視した時に感じる嫌悪などのサイコロジカルなテーマ。

でもそれはあくまで金持ちに与えられた選択肢の話であって、持たざる者にはそもそも人権もないということを表しているような、島の管理区域外の貧民やクローンの扱いが印象的。被害者家族が刑場でクローンを処刑しているのを見ている構図なんて、ローマの闘技場で奴隷同士を殺し合わせているみたいな趣味の悪い娯楽に映った。

トリップが激しかった分オチがやや弱い気がしたけど、スカルスガルド兄の子犬みたいな顔にキュンとしたい人や、ミア・ゴスちゃんと一緒に狂い果ててしまいたい人にはお勧めできます。