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サントメール ある被告のMISSATTOのレビュー・感想・評価

サントメール ある被告(2022年製作の映画)
4.5
冒頭の講義シーンで一気に胸が高まる。
ナチスに加担したとされたフランス人女性たちが、戦後直後、市民に私刑で髪を短く切られる映像と共に、作家マルグリット・デュラスの「Hiroshima, mon amour(ヒロシマ、モナムール)」の一節が読まれる。
言葉の響きが美しい。
目の前に見える景色やそこから感じる自己の内面を綴った時のフランス語らしいフランス語は、言語が持つ美しさを聴かせてくれる。
少なくとも、冒頭のシーンではそう思った。

見進めるうちに、同じようなフランス語の言葉や話し方が、人を(物理的に、精神的に)殺す武器にもなり、呪いにもなると思い知らされる。
あ〜醜い、なんて醜いんだ…と思うシーンもあった。
言葉や会話がないシーンの方が雄弁で印象的だから、ますます整った言葉や、話者にとっては真実を語ってるつもりの言葉が美しいわけではないことが際立つ。
そしてこれは、どんな言語でも起きてることなのだと思う。

妊娠を経験しようがしまいが、差別を経験しようがしまいが、多かれ少なかれ、おそらく全ての女性が、生まれて自我を持ち始めた時からずっと晒されてきた、そしてこれからも(国による短長はあれど、しばらくは)晒されるだろう現実が濃縮して映像化され、言語化されている。見事に。本当に見事に。

子殺しの被告の弁護士の最終弁論で涙が止まらなくなった。
聞く人間とタイミングによっては、呪いにも聞こえる言葉。
“そう”だとしても、親でも、子でも、女性でも、“一人の人間”への尊重が、結局人の命を救うことになるのだという、あまりに当たり前で、だけどなかなか実現されない現実を真っ直ぐに訴えてくれるシーンだった。

映画を見終わって、帰りずっと頭に浮かんでいたのは、
『お母さんに見て欲しい。お母さんならこの映画をどう見るだろう。なんて感想を持つだろう。どんな話が聞けただろう……』だった。
そう思った映画は今まで1作もなかった。
お互い映画を見るのは好きだったし、好みが重なることも多かったから面白かった作品は互いに勧め合ったりもしたけど、見てほしい、なんて思ったことはなかった。

今年見た中で、今のところベストです。
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