Jun潤

インスペクション ここで生きるのJun潤のレビュー・感想・評価

4.2
2023.08.14

A24作品。
ゲイであるというだけで起きる差別、それでも自ら選んだ場所で生きていくことをストレートなメッセージを、事実を基にして描く。

2005年、ニュージャージー州。
ゲイのフレンチは、母親から家を追い出され、住む場所もなく、自ら志願して海兵隊へ入隊する。
最初はゲイであることを隠し、過酷な訓練や上官の怒号にも耐えてきたが、ある日シャワー室で勃起しているところを同期達に見られ、ゲイであることが露見してしまう。
そして始まる同期達による暴力や、訓練への妨害。
それでもフレンチは腐ることなく、海兵となるために邁進していく。
しかしフレンチの目的はその先にある、戦地での名誉ある死だったー。

んは〜、普段LGBTQだなんだジェンダーレスだなんだと聞いてもピンとこないどころか、なんじゃそりゃとノイズに感じることもしばしばですが、こうして作品として描かれ、さらに実話を基にしているとなるとかなり胸にくるものがありますね。

まずはストーリー全体として、海兵隊に入隊したフレンチが、同期達からの妨害に耐えながら厳しい訓練に臨んでいく様子を中心にした、青春群像劇のような様相。
テンポのよさも不穏さもあるBGMばかりでしたが、重厚感は共有していて作品の雰囲気にマッチしていた印象です。

今作でのフレンチや同期達の立場を、恋愛も性愛も女性が対象の僕にあてて考えてみました。
フレンチの立場に立つと、性格や好みを問わず、女性だらけの場に放り込まれたら、実際の行動に出ることは理性が抑えていても、生理現象が起きるのは本能だから止められないんだろうなと思います。
また、同期達の場合、男だからこそ、暴力や差別を使ってでも、自分に降りかかるかもしれない実害から身を守ろうとすることは当然っちゃ当然ですし、女性からしてみれば体格も力も敵わない男性からの実害を避けようというのも、身を守るためなら当然の反応だよなと感じました。

もしかすると少々考えすぎなのかもしれませんが、そこまで考えさせられるほどの深みが、今作からは感じられました。

海兵隊の厳しい訓練の描写や、同性愛者や異教徒を必要以上に排斥しているような描写は、事実とどれぐらい忠実なのかはわからないものの、ちょっとやりすぎなのかなと思ってしまいました。
国を守り抜くという大義のためには、性愛や宗教感の違いがその妨げになるかもしれないから、厳しい訓練で肉体と精神を研ぎ澄ますだけでなく、一個の軍隊として統率させようというのも分からないではない、舞台となる時代が時代だけに尚更。
しかしどこかに、上述のような自衛だったり、同期同士の嫉妬だったり、自分がされたのだから下の世代にも同じ思いをさせるといった上官の思惑など、個人的な感情も介入しているのかもと感じました。

原題の『Inspection』は作中で「銃点検」と訳されていました。
これには自国や仲間、自分自身を守るためには点検が大事だよねっていうことと、もしかしたら男性器を銃に見立て、大事な場面で暴発・暴走しないよう自制しなきゃねってことも含まれていたかもしれませんね。笑
Jun潤

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