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福田村事件のyukoのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
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わすれられない言葉はいくつもあったけれど、行商団の少年の「なんで」という繰り返される言葉が、森達也監督がラジオで言っていた、「(映画を観て感じた)疑問は自分で考えてほしい。それに僕は答えるべきではないと思っています。」という言葉と一緒に頭に残ります。

観ているあいだはしんどくて気持ち悪くなりもして、ぐったりとして放心していました。自分がもしその時代と社会情勢、自分のおかれた状況、雰囲気とコミュニティのなかで生きてきた彼、彼女であったなら、ととても自然に考えながら観ていたことに映画が終わってから気付いて、途方もない気持ちになってしまった。

その時代の女性目線の描写が多いように感じて、特に男性の自警団がそこかしこにいる夜道を女性ふたりで手を強く握り合って歩く場面は心底こわくなってしまって、直視できないくらいでした。それから登場人物たちの語り、言葉とか表情に、何回も息が詰まって、涙がでました。

皆んな自分の名前があるのとおなじように、今まで生きてきていろいろあったという当たり前のことを改めてしっかりとみせられました。

不安とかこわさはいつもはなんとなく予想できていた毎日がある日激変して、見通しのつかなくなった状態、今ここにないことを思うときにできる感情だと思うから、そんな状態に自分がもしなったらきっとそういうものはすぐにわき上がってきてしまうもので、そのひとがどういうひとなのか知らないから、わからないからこわい(当時は他の地方のことにふれる機会も全然ないからよけいに)、異常な状態でこれからどうなるのか、何が起こるのかまったく予想もできない、わからない、今まで経験したことがないことだからこわい。こわくて不安だから何かにすがりたくなる。自分だって簡単にそうなってしまうのかもしれない、ということをしっかりと想像させてくれるような映画で、そこから先の思考は今もまだ続いているような状態です。

家に帰ってから、あのとても力強く唱えられていた水平社の宣言を改めて読み返して、まだ頭のなかで自分が観たものの反芻が続いている状態でもあります。
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