yuko

ファースト・カウのyukoのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.9
遠い昔話、お伽話のようでいて、めちゃくちゃ現代の話でもあるように感じてしまいました。それは人間はどこまでいってもそうなんだという、いつまでも変わらないものが描かれているからなのかもしれないです。

消費社会、資本主義、権力を持つ人間の態度、もの(自然界から人間がもらっているものぜんぶ)の価値基準、それの有限性、何かを共有するというような考え、そういうものに対しての意思表明的なことが、明確に言葉としてではなくとても自然なかたちで朗らかに、だけど強固な姿勢で語られているように感じました。

画面のなかのどの動物もめちゃくちゃ愛らしく写っていて(意図的なのもあると思うけれど、どう撮ってもこうなっちゃうんですよという類の自然さ)、それに対しての人間の狡猾さ、仕方のなさと、クッキーの当たり前のことだからそうしてるだけなのだけど、という目の前の人間、動物に対して常に何かをしてあげたくなる、与えようとする、自分に必要な分だけを感謝しながら受け取るというような態度と、仲買商とか隊長の、与えられることは当たり前でそれを底なしに欲求し続けるような態度、それらの対比がものすごい。野心的な部分もかなりあるキング・ルーも最後にはお金がたっぷり入った袋を枕にして、ふたり横たわって目を瞑る場面はいろんな感情がわいてきて、もうなんとも言いがたい気持ちになってしまった。
彼らのアメリカンドリームは敗れた、というだけの話で終わらないあの結末は、彼らが誰と出会ってどういう時間を過ごしたのかということを静かに感じられるもので、ケリー・ライカートはそこに至るまでをそのままスクリーンに映そうとするひとなんだと改めて感じました。鳥にも蜘蛛にも人間にも、それぞれ帰るところがある。

彼女が一貫して抗っているもの、映そうとしているものが、エンドロールまでみおわって気付いたら自分の手元に残されていて受け取っているということが毎回必ずある、そういうケリー・ライカートの作品が私は好きです。
yuko

yuko