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ロスト・キング 500年越しの運命のfonske0114のレビュー・感想・評価

4.5
リチャード3世の未特定である埋没された骨格を辿る女性の歴史ヒューマンドラマ。実話に基づく話で2010年代のスコットランドとイングランドが舞台。

歴史物でありながら成長譚、社会派、ミステリー要素にイギリス的な笑いも散りばめられている。
とても地味な作品なので見る人を選ぶであろうが、文系で大学院まで行った私には考古学的視点や物事に一心に向き合う姿勢は胸が熱くなるとても好みな作品だった。



以下ネタバレ感想を。

私はこういう作品が好きだ。
こういった、一般人が自分の道で切り開く、何が先にあるかわからない、でも直進して行く、こういう人が夢中で行動し、そこから物語が動く作品が人間味があってとても好きだ。


リチャード3世への関心は観劇し、彼の人物像に触れたことから広がっていく。そこから本を読み勉強し、協会に入り仲間や知見を広げ、自分の考えの正しさの証明に向き合う。


行動を重ね、新しい環境に飛び込み、また動いていく。振り返るととても大きな海原にいる。私は打算的ではなく情熱的なこうした人の成長譚がとても好きだ。


私は人はひょんな事から物事に興味を持つことは大いにあると思っている。加えて、盲目的、ときに狂信的に何か特定のものに熱中する人もいるのは自然なことであると思う。

関西のバラエティ番組「探偵!ナイトスクープ」ではマネキンに恋する女性、柔道着の匂いフェチな男性、昆虫大好き少年、B'z大好き少年など特定のものに強い執着心を持つ人が依頼者として現れる。

今作でも「なんでそんなにハマるの?」という人もいるかもしれない。しかし人はちょっとしたことから夢中になる、何かが自分を離さないことは大いにあるわけで(理屈ではない)、主人公が「歴史」ではなく「リチャード3世」にこだわっていたことが非常にリアルで良かった。


加えて、脊髄が曲がっていること(英語で言う「ハンチバック」。尚、芥川賞を受賞した西川沙央さんの同名小説『ハンチバック』の主人公は脊髄が曲がった女性である)や汚名を着せられたリチャード3世と、筋痛性脳脊髄炎(ME)を持ち仕事や家庭でうまくいかず陽の当たらない主人公とを重ね合わせていた。

そうした偶然的、運命的巡り合わせと重ね合わせがとてもリアルでかつ、導かれるようなものが作中にあった。

導かれる、と言う点ではイマジナリーフレンドのように登場するリチャード3世との対話は、正に「死者と対話する」この大切さを体現しているようで、本編では「感情的」と表された部分はこの「死者に耳を傾ける」「死者に導かれる」ある種のスピリチュアル的な部分なようにも思った。


大学と関わるようになってからは非常に現実的だった。予算や名声に関して傲慢さが出た大学であるが、これは実際にも世界規模で起きてきていることであり、「文系科目の閉鎖」をなくしてきている大学もある。

これは実学、経済や社会との関連、その直接的な有益性の見えにくい文系科目は廃止し、経済や科学などもっと実社会や企業、利益とつながるものを、という考えからきている。


日本でも大学と企業が結びついた産学連携は増えつつあり、X(旧ツイッター)でも「古典廃止論」で盛り上がったことは記憶に新しい。

(今は社会的・経済的に余裕がなく、また何のためにあるのかがわからない、と言う視点も一定の理解はできるものの)文系科目で大学院修士まで行った身としては、短絡的な見方ではなく不可思議な「人」への奥深さや可能性を追求することもできる文系科目にももっと焦点を当ててほしいと思っている。


更に、研究や論文というものは自己の考えを証明することやそのための調査や実験であるので、今作の主人公のような一心に主張を支えるための姿勢は研究や分野に特化する人にはとても目頭が熱くなるところではないかと思う。

それらのことから、純粋に支援をする人たちへのクラウドファンディングでの寄付や発掘された人骨が王であったことがわかった瞬間などは、熱意や夢中の結実のようでとても感動した。


物語としては、「情熱で想いが実る」だけの話ではあるが、私としては以上のようにその裏側に多く思いを巡らすところがありとても良かった。


映画としても一般人の日常ものなので地味であるが非常にテンポがよく、感情・直感、理論、実益などそれぞれのキャラクターもしっかりしている。


雨のシーンは、始めは「イギリスだから雨がよく降るのかな」と思っていたが、観劇後運転手にリチャード3世を擁護する時、発掘調査を始めた時、発掘され3世とわかった時など王と関連しており、ラストの別れの広野のシーンでは遂に晴れ間が出る演出となっているのではないかと感じた。


個人的にであるが舞台となるエディンバラやスコットランド、イングランドには数回旅行したことがあり、懐かしく思った。
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