りょう

正欲のりょうのネタバレレビュー・内容・結末

正欲(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

劇場でやっている時には観に行けなくて、泣く泣く原作を読んで配信を待っていました。こんなに早く観れるなんて!
あまり読書しないのですが、とても面白かったです。世の中にはありとあらゆる性的志向があり得て、極めて少数の志向を持った人たちはこんな風に世界が見えるのだろうか、と衝撃的でした。

当然原作の方が細かい心理的描写があって、物語の厚みとしては圧倒的に原作ですが、かなり忠実に再現されている作品でした。

桐生夏月も佐々木佳道も、絶対に周りに理解してもらえず明日いきたいとは思えていない絶望感がよく出ていたと思います。さすがガッキー、磯村勇斗。2人が偽装夫婦になり、協力し合って生きることを決めてから、恋人同士でもないのに仲睦まじい関係性が救いだったのに。人に対して性的な感覚のない2人が、セックスの真似をしてみるところがとても微笑ましかった。なのに、やるせない結末。

自分自身の想像を超える考え方や性癖であっても、それはみんな違って、みんな良い、多様性だから理解しましょうね、という世界は訪れないんだと再認識した。そして同時に、正欲にまみれた自分は当然どんな他者も受け入れることなど到底できないとも思った。できるとしたら、そういうこともあるんだ、と知った上で関わらないことくらいかもしれない。関われば無意識の正欲が結局相手を傷付けることになるから。

稲垣吾郎とその奥さん役の山田真歩さん(自分の中ではやっぱり架空OL日記の酒木さん!)の2人もかけ違いが悲しすぎる。自分は完全に吾郎ちゃん側の意見なのですが、不登校の息子と対峙する毎日ならYouTuberとして前向きに活動しようとする子供を応援しようというのもわからないでもない。

やりたい、したい、ということに正直であることが果たして幸せなのか、と問い掛けているような気もしてきた。

神戸八重子は原作ではもう少しズカズカと大也に踏み込んでいく、少し自分の正義感に酔っているような描き方だった気がするが、映画の八重子は自信なさげな性格で、これは実写化にあたっての微調整か。東野絢香さん、初めて観ましたが、不思議な魅力の方でした。

多様性が素敵な言葉として飛び交っているからこそ、そんな生易しいものではないと突き付ける、さすが朝井リョウの作品でした。
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