ヒラツカ

正欲のヒラツカのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.1
朝井リョウの小説は、スマートさや合理性みたいなものが通念にあるいまの若者の間に存在する「ウソ」を、率直に暴いて言語化してしまう、という仕掛けが多いと思っている。僕はこの作家の積極的なファンというわけでもなくて、まあまあ好きなのとそうでもないのがちょうど半々、という感じであるが、(エッセイはだいたいおもろいんだけど)、『桐島〜』とか『何者』のような、たまたま映像化している作品たちは「好きチーム」だった。そして今作もまあまあ好きだなあと思ってたら、やはり映画になったのね。
いまだに同性婚が法律で認められないという、世界の中でも珍しく不寛容な国・日本だが、ここのところでようやく「LGBTQ」みたいなフレーズが市民権を得てきた。しかしその聞き馴染みのよい言葉は、かえってどこか上すべりしてる感じがあり(「SDGs」かのように)、ほんとうの意味の「多様性」には、けっきょくのところほど遠いままなんじゃなかろうか。この問題の難しいところは、嗜好性が他人に理解されないということが、どれほど生きづらいのかを実感していない大衆が、知らないままに悪気もなく当事者を傷つけてしまう、ということだ。今回、それを実感させるため、「ゲイやレズならまだ分からんでもないけどな」という感覚なら醸成されたいま、「水にのみ性的興奮を得られる」という、マイノリティをさらにデフォルメする設定を作り出したのが面白い。(しかし、僕はこれを「デフォルメ」と言ってるが、ほんとうに水にしか勃起しない人がいるのかもしれなくって、その場合は僕自身もヘテロセクシャルの安寧の中から脱却する想像力がないしょうもない人間である。)
映画は、まあ、映像にするほどでもなかったかな、という出来になってしまった。そもそも監督が60歳の人なので、34歳の朝井リョウの言うことをきちんと咀嚼できているかは怪しい(というのもダイバーシティの欠如なのかな。)中盤の、マイノリティの2人が「疑似セックス」をしてみるというシーンは、もっと「これって意味わからないよね」という表現にするべきだったんじゃないかなあ、薄暗い小さな部屋で感じの良いコミュニケーションがあり、なんかそのまま性愛が始まってもおかしくないように見えたけど。『哀れなるものたち』の濡れ場が完全に乾ききっていたのを見習って欲しい。
邦画だとだいたいキャストの話の割合が増えるが、主演の新垣結衣が、終始仏頂面で可愛げがなくて、これだとあんまり意味がないような気がする。もともと演技派の人でもないので、こんな好感度のあるタレントには、もっとにこにこするキャラクターを演じてもらったほうが需要があると思うんだけどな。まあでも、黒目がでかくてタッパもあるため、サイコパスなシリアルキラーみたいな役が似合うんじゃないかなという発見があり、挑戦してほしいと思う。その一方で、「水フェチ」よりはまだ人数がいるレベルのマイノリティを演じた東野絢香が、いちばん個性的で技巧派の演技をしちゃうもんだから、「ほんとのマイノリティ」の4人が、どうもくすんじゃったような気もした。