ヒラツカ

オッペンハイマーのヒラツカのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.4
「バーベンハイマー」のミームが炎上するみたいな事件があったからか、大手の配給会社がことごとく日和ったため、日本ではけっきょく半年以上遅れての公開となった。また、近所のTOHOシネマでは、シアターの入口に「原子爆弾投下による被害を想起させる表現があります」という注意書きを貼るという厳戒態勢だ。こういった、戦争・紛争やテロなど、政治的な事変をブロックバスター映画の題材にしちゃうという姿勢は、欧米では当たり前に行われてきた感じがあるが、日本ではあんまりやらない。戦争はどちらかというと「災害」と捉えられ、政治として扱う場合には、枢軸国、本土決戦、天皇統治みたいなものがちらついてきちゃって、通念上のタブーが多い。そして何と言っても敗戦の象徴として重くのしかかるのが「原爆」で、これはエンタメとしてへたに笑いながら扱うことはできず、慎重に取り組む必要がある。そこんところ、クリストファー・ノーランはいっつも語り口がクソ真面目なので、そんなに心配することもないのにと思っていたが。
公開2日目朝イチの回なのに映画館は大入り。3時間の長尺だが、『インセプション』や『インターステラー』のときのようなケレン味あふれるおもしろ映像は少なめで、地味な室内の会話劇が中心なので、まあまあ眠かったんだけれども、中盤の山場であるトリニティ実験のシーンで、地球すべてを焼ききらない「ほどよい」爆発を実現させたとき、しばらくの無音ののちの「どがーーーん」という轟音演出で、僕は文字通り飛び上がってしまって目が覚めた。また、講演会の観客たちが黒焦げになったり、会議室での公聴中に浮気相手とセックスするなど、主人公たちの主観をそのまま映像化するという古典的な抽象表現が興味深く、こういうのを実直に正攻法で取り組むのが、ノーランだよね、という印象。このへんもクソ真面目なんだよな。
大量殺戮兵器の開発者は、どのような罪に問われるのか?人類は火を扱うようになって他の動物と一線を画し、火薬を進化させた国が覇権を取ってきた。科学の進歩は常に戦争と隣合わせであり、これは好戦的な生物として避けられないものなのか。個人的な意見としては、ものづくりをする人は「俺は作っただけであって、どのように使うかは皆さん次第ですよ」という態度ではダメで、その先まで見すえるべきだと思うし、優秀なクリエイターは実行している。その点、オッペンハイマーは、核分裂をする爆弾を開発したこと自体よりも、それが軍に取り上げられて実用のために運ばれていくときに、見て見ぬふりをして、逃げたことがいけなかった。
さいきん、新作映画は極力事前情報なしで観ることにしてるけど、今年はWOWOWでアカデミー賞授賞式を観たばっかなので、キリアン・マーフィー、ロバート・ダウニー・jr、エミリー・ブラントが出てるのは知ってた。それにしても、RDJが壇上でキー・ホイ・クァンを無視したことが炎上しているが、個別紹介をしてくれたティム・ロビンスに真っ先にありがとうと伝えに行っただけ、に見えたけど。ティム・ロビンス、デカいから存在感あるんだよな。差別撤廃のムーブメントはとっても良いことだが、さいきん逆に振れすぎているのでは。それはさておき、今回も「出てるのを知らなかった役者」が楽しかった。まずは、メンヘラ彼女のフローレンス・ピュー。さいきんはヌードを封印していたけれど、絶対にヒットする作品でここぞばかりに提出したのが勝負感あるよな。また、ケイシー・アフレック元気そうで良かった、マット・デイモンが連れてきたのかな。水爆推進派の研究者が、なんだかデヴィッド・ダストマルチャンに似てるよなあ、と思っていたところ(これは『アンカット・ダイヤモンド』の監督のベニー・サフディだった)、その後デヴィッド・ダストマルチャン本人も出てきたのにびっくり。いやにイケメンな同僚の研究者、これ誰だっけなあと思ったら、エンドロールで「ジョシュ・ハートネット」って書いてあったのにもびっくり。そしていちばんのびっくりがゲイリー・オールドマンだった。僕はこの人の大ファンなのだ。チャーチルに続きトルーマンと、戦勝国の指導者を特殊メイクで演じたのは、偶然なんだろうか?原爆投下の承認を行った唯一の人間の役を演じるには、彼じゃないと荷が重かったか?