ヒラツカ

怪物のヒラツカのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.5
冒頭の物語は、一見するといじめや体罰・「モンスターペアレント」みたいな、これまでいろんなドラマでこすりたおしてきた社会問題を扱っているように見える。でも、そもそもこんな物騒なタイトルで、教授のスコアは『シャイニング』のテーマと同じ旋律を奏でるし、このまま終わるわけがないよなあ、と思っていたら、案の定2週目が始まり、きちんとサイコ・スリラーに寄っていく。その首謀者はミナト君なのかヨリ君なのかというミステリになってきて、いや校長も怪しいねえ、いいぞいいぞ、と思っていたところ、3周目の子供たち目線の話になってみて「あれっ?」とびっくり。その実は、不器用で美しい「純愛モノ」だった。もっと心がえぐられるようなグロさを期待していたので拍子抜けしたが、こういう「温かい」裏切りというのは逆にけっこう新しいのではとも思った。
是枝裕和は、『ワンダフルライフ』や『DISTANCE』など、フィクションとノンフィクションの垣根を取り払おうとする意欲作で頭角を表したが、その後はきちんとマスに迎合し、創作物語に取り組むようになった。しかし、いくら脚本ありきの物語とはいえど、結局のところ、台詞に聞こえないような台詞を役者に発声してもらうということに、相変わらずこだわり続けているんじゃないかなあと思う。そして、そうした取り組みは、子役ととっても相性が良いと思っていて、大人の役者が「自然な台詞」に取り組むのはじゃっかん「やってんなこいつ」というあざとさが見えてしまうところがあるが、子供には出世欲とか所属事務所のイメージ戦略とか、そういう世知辛い複雑な事情がないため、自然な台詞回しは、そのまま自然な会話に見える。なので『誰も知らない』の柳楽優弥とか、『奇跡』のまえだまえだのように、過去の監督作の中では、幾人も重宝される子役が排出されてきた。(大人でも、井浦新やYOUがそういうことか。)
しかし今回、超人気脚本家とタッグを組んだので、じゃあどういうことになったんだろうと思っていたが、結果としては、是枝映画というよりは、はっきりと「坂元映画」になったようだ。「ナチュラル」がスタイルの監督作では、あそこまでキャッチーでウィットに富んだ台詞は出にくい。いちおう、安藤サクラとか高畑充希、田中裕子みたいなツワモノたちなので、ぱっと見では自然な空気感は出てるのだけれど、「はい」「『はい』じゃなくて」「ええ」「返事を『はい』にしないで欲しいわけじゃなくて」みたいな会話を緊迫感のあるシーンでも交わすという、コントみたいな「坂元節」は現実世界ではあり得ないわけだが、彼女たちだと上手に馴染ませる。
その他の役者でいうと、瑛太なあ、うーん、誤植を探し出して出版社へクレームを入れる、みたいなサイコな趣味してる人には見えなかったなあ、冒頭で悪人かと思わせるミスリードをしてほしかったが、じゃっかん力量不足というか、そもそものタイプが違ったんじゃないかなあ。それこそ柳楽くんとかぴったりだったのでは。中村獅童も中村獅童じゃなくても良かったような。そういう意味では、是枝監督も坂元裕二も、どちらも女性を生かすドラマが得意という共通点があるので、今作はそれが助長されたのかもしれない。