ヒラツカ

プリシラのヒラツカのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
2.8
ソフィア・コッポラの映画では、『ロスト・イン・トランスレーション』とか『SOMEWHERE』の、何も起こらないだらだらとした作品群が、「好き」って訳ではないんだけれどなんだか気になる、という評価をしている。ただ、『ヴァージン・スーサイズ』や『マリー・アントワネット』のような「脳内お花畑」という系列はちょっと苦手だ。すべての作品に共通するのは「孤独」だと思われる。小さいころお父さんが忙しくて遊んでくれなかったとかなのかな。でもその割には『ゴッドファーザー』とか『スター・ウォーズ』に出させてもらったりしていて、うらやましい境遇ではあるけれど、まあ有名人の子供というのは、僕らには分からないような複雑な葛藤があるのであろう。
本作は、エルヴィスにほったらかしにされる妻・プリシラということで、確かにソフィアにどんぴしゃの題材なのかもしれないが、バズ・ラーマンが『エルヴィス』の中で20分くらいでさらっと描いたサイドストーリーを、2時間かけて延々と語っていた。グレイスランドでひとりでぼんやりし、エルヴィスが帰ってきたらベッドで一緒にだらだらし、またバスに乗ってツアーに出かけるエルヴィスをひとり見送る、という日々の繰り返し。執拗に同じシークエンスを繰り返すこの冗長さは、ふつうの映画監督だったら怖くて真似できないんじゃないだろうか。そのへんのリズムというか音楽的な展開は、天丼としてある意味心地よく癖にはなるものの、物語としては何も積み上がってないように思えて、けっきょく感情の流れや事件の機運がよくわからないことになってしまう。まずエルヴィスが何を考えているのかまったくわからない。なんでいつもくよくよしてるのかわからないし、ほんとに浮気してるのかもわからない。これは演出が下手だからわからないのではなく、そもそもわからないように作ってある。彼がプリシラのことをどう思っているのかもさっぱりだ。彼女のメイクやドレスを指定したり、性的関係を「今じゃない」と言い続けたりして、人形を可愛がる心理に近そうかなとも思いきや、卑劣な暴力をふるったあとにいやに優しい態度を取る、典型的なDV男みたいにも見える。それから、プリシラも何がしたいのかも、いまいち不明だ。流されるようにアメリカへ渡り、カンニングで高校を卒業し、空虚な毎日に対しては、ときどき「きいーっ」となるものの、結局ぬるま湯の中に安寧している。と、思っていたら、突然の最後の決断があり、そして『オールウェイズ・ラヴ・ユー』で「あなたのために去るのよ、でもずっと好きよ」だって。ぽかんとしてしまった。
プリシラ・プレスリーと言えば、レスリー・ニールセンの『裸の銃を持つ男』のときの、ものすごく美人なのに階段をこけたり壁にぶつかったりするスラップスティックな立ち居振る舞いが好きだったな。