ジェイD

ウォンカとチョコレート工場のはじまりのジェイDのレビュー・感想・評価

4.7
チョコを口に含んだ時の感覚を映し出したような胸踊る多幸感。純粋無垢な天然少年が自分の夢を叶えた先に、その夢の隠し味にこそ意味があったことに気づくまでのてんやわんやファンタジー。

世界一のチョコレートの店を作るべく、チョコの激戦区グルメ・ガレリアにやってきた若きウィリー・ウォンカ。しかしその街は、恐るべき陰謀によって夢を見ることを禁じられていた。母との約束を果たすべく、ウォンカは底なしの明るさで夢へと突き進むが…。

次々に自分の「好き!」がやってくるような一作でした。ミュージカルとは聞いていたけどちゃんとたくさんの曲で溢れていたし、そのすべてが浮世離れなマジカル溢れる映像の連続だったためずっとウキウキしていた。最初の曲中にシャラメ君演じるウォンカが電柱に捕まって"舞い降りた"時点で確信した、この映画は新たなお気に入りになるぞと。で、本当にブッ刺さり案件だったわけだ。

思うにそれは、この作品が僕の今までで一番大好きなある映画作品と近い構造を持っていたからだったとなんとなく考えた。まあ『メリー・ポピンズ』なんですがね。人間の理屈が通じないレベルの圧倒的な魔法で周囲を巻き込みながら自分の目的を果たしていく主人公と、気づけばそれぞれ成長しながら幸せになっていく家族やコミュニティ。ご都合主義とか不都合や矛盾とかいうお堅い言葉が全く太刀打ちできない強烈な「物語の魔法」がメタ的にもかかっている。

思えば今作に出てくる「悪い大人たち」がみんな中々に胸糞悪い奴らで、『チャリチョコ』というより『ティムバートン作品』に出てきそうなもはや滑稽にすら見える鬼畜しかいない。自分たちの利益しか気にしてないしチョコを賄賂に多方面とズブズブという、チョコの本質を理解できてない、童心なんて切り捨ててきたような奴らをウォンカは相手にしなきゃいけない。キラキラの魔法とドロドロの陰謀がせめぎ合うような一面もあるから勧善懲悪ものとしても強固。

改めて腹が立つくらいイケメンなシャラメ君がハッチャケながらウォンカを演じているので画として見応えがあるのも確か。(趣味の悪いコントの件は一旦頑張って忘れるね。)こんな純粋な夢を追う少年が後にニコニコしながらデブッチョをチョコの川に沈める狂人になると思うと現実は何とも残酷なものかと落ち込むが笑 これ宣伝が厄介なんだけど、思うにこれは「原作小説の前日譚」だったんだと思う。近いユニバースとして'71年のワイルダー版が存在しているってくらいで、デップ×バートン版はマジで無関係。もはや2021年の『クルエラ』がシン・101匹わんちゃんだったように独立世界線としてキラキラを保てた大人ウォンカのチョコレート工場を作って欲しいくらいだよ。まあ前日譚とか意識せずに単体で成り立っている気もするので単に「チョコ食べたいなぁ」で観るのが正しい。

もう1人ウンパルンパっていう小っちゃいイケオジがいたんだけど、顔がヒューグラント過ぎてちょっと笑った。いや演じてるから顔がヒューなのは当たり前なんだけどいざビジュアル化されるとキモカワなスタイルと激渋な御顔立ちがアンバランス過ぎてすごく良かった。ちゃんと活躍するし、そう長くない登場シーンで存在感ありすぎるんよ。

まあ前日譚なわけだから最後には工場が出来上がるしハッピーエンドは確約されているわけだが、それを踏まえてもこの時間が続けばいいのにと思えるほど楽しく童心を掘り起こせるようなひとときがずっと続く一作だった。終盤に出てくる特別な金のチケットに書かれていたメッセージはチョコレート=幸せの本質そのもので、あまりに温かすぎてついつい落涙した。鬼畜な大人どもへのカウンターであり親子愛の結晶でもある。良いだろ男はみんなマザコンなんだよ!

イケメンの顔芸とチーム物の熱さ、そして笑えるほど下衆な敵役たちを文字通り飛ばして終わる夢物語。子供向け…というわけではなく、むしろ大人になって忘れていた子供の頃の夢とか煌めきで満ちていた純粋さを改めて掘り起こして思い出すような秀作でした。


それにしてもヒューグラントと松平健にあのアホアホソング歌わせたって正気か?
ジェイD

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