動物の楽園を舞台に人間の社会問題を落とし込む予想外の社会派モフモフアドベンチャー。自分の無意識下の差別心を認めて分かち合う本当の意味での理想に少しずつ近づこうとするディズニーの寓話。
誰もが夢を叶えられる動物たちの大都市ズートピア。相次ぐ怪事件を追うべく、立派な警察官を夢見るウサギと夢を忘れた詐欺師のキツネがタッグを組む。
舞台は「誰もが理想の自分になれる都市」ってことだけど、それホントか？という疑念を持ちながら鑑賞することになる本作。ハイテクなビジュアルと水生陸生様々な動物たちがちゃんと働いて暮らしている風景はすごくワクワクするのだけど、やはりこの世界も現実社会の写しなのかミステリー要素が入ってきたあたりで理想が打ち砕かれていく音がする。進化しても中身はケモノのまま、というのは言い得て妙。動物の擬人化を得意とした作劇から、急に野生に帰る様を映し出すのはかなり恐怖がある。
この共存可能都市ともいえる街では水路や小動物向け通路は整備されているけど、動物ごとに可愛いは禁句だとか警察署が小動物に優しくない構造だとか誰もウサギを助けない組織だとか小難しい蟠りは絶えない。多様性を進めていこうとしながらも細かいところまでは間に合っていない、過渡期というかそこは我慢しなきゃなのかと悩まされる絶妙に理想に届かない感じがリアル。1番ゾッとしたのが、ズートピアにいる動物の9割が草食動物という設定がサラッと話されたこと。あまりに怖すぎた。
見た目で判断しないってのはわかりやすいところかも。ちっちゃい1人用の冷凍のニンジンを捨てたジュディと小型のケーキを美味しそうに味わうニックの対比もそう、Mr.ビッグという名前もそうか。意図的に逆張りしていると思えるほどに偏見やイメージを覆していく。そもそも黒幕の正体に「意外だった」と思った時点でもう我々の差別や偏見は始まっているのかもしれない。
差別の意識があったとしても、それを認めてその上でお互いの関係を作るというテーマもまたすごい。中盤、ジュディがニックに謝罪するシーンが物凄く印象的だけど、こういう会話は本来…始めるのは難しいよね。「ゴメン、実は今まで君に対して少しだけ苦手意識持ってた、でも無意識でかつ無知だったがゆえだったんだよ、傷付けてしまってゴメン。」ってことな訳じゃん、だいぶ勇気いると思う。理想とかなんやら言うだけあって潔白でいたいという思いが自分の差別心を隠そうとする。いわゆる「差別じゃないけど、あれ〇〇だよね」構文なんてその典型。そこで今作が打ち出した新たな理想は、差別があるのはしゃーない、何なら全員に少なからず差別はある、その上で仲良くせぇ、というもの。これもまた難しいんだけどねぇ…。
何が難しいって相手や状況について正しい理解が伴っていないまま種族がどうとかって話すと一瞬で誤解と分断を生んでその隔たりを広げる。みんな仲良くね、の気持ちで構えていると想像以上の誤解を広げるから自分の言葉には気をつけなきゃいけない。そんなつもりじゃなかった、じゃ済まされないぞとガチ目に釘を刺してくるからびびる。無意識の偏見差別は差別じゃないとか言うような人は一回これ観て考えを改めぃ。本当にこうした議題は、答えがわかってても解決が程遠い。その点今作は「こうやったら解決して平和になる！」ではなく『実際難しいから実現したいなら本気で頑張っていこう。』と真摯な呼びかけに終わったのがとても正しいなと感嘆する。
ところで男女バディものとして成立してるの結構凄いよな。男女ペアのキャラって高確率でロマンスに直結してしまう傾向にある中で、恋愛感情ほぼナシ(今のところは)でとある目的の達成のためにお互いの信頼を深めていく関係ってのがかなり好感度高い。いやいいよ、続編とか今後の展開しだいでもう結婚しちゃってても全然良いとは思うけど(笑)、少なくとも今作においてはこのスレスレ感が魅力的で強い友情として受け取れるので、すなわちニクジュディはいいぞ。前述した重いテーマをバックに理解しあってるんだもん、モノホンだわ。
ジュディも良いんだけど、ニックの魅力が大きいんだろうな。幼少期から自分の種族にコンプレックスとトラウマを持って夢を諦めながら捻くれて生きてしまった大人。シリアスな場面でも笑うしか自分を保つ術が無いから、必死にユーモアを混ぜ込もうと気丈に振る舞おうとする32歳。だからまっすぐに夢を負うウサギの足は引っ張りたくなるニヒルな男なんだけど、そんな彼がちゃんと報われるから嬉しい。今回ばかりはやっぱりいつも平和に終わるよね〜なディズニーマジックに感謝せざるを得ない笑
ズートピアで草食動物と肉食動物は実際それほど仲良くないし、自分は変えられないとニックは最初の方は皮肉っていた。たしかに変わらないかもしれないけど、そのうえで理解し合わないといけない。できないこともあるし間違うことはあるけどそれは全員がそう、自分を知って自分を変える意識は必要なのかもしれないですね。
別に全然構わないけど、気にするのも野暮なんだけどふと思ったことについてはネタバレコメント欄にて。
