開明獣

西部戦線異状なしの開明獣のレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
5.0
アメリカのノーベル賞作家、アーネスト・ヘミングウェイは赤十字の一員として第一次大戦に参加し、重傷を負った。その際の経験を小説にしたのが、「武器よさらば」である。第一次大戦での圧倒的な暴力を目の当たりにし、虚無的、もしくは刹那的になった世代をロスト・ジェネレーションと呼んだ。ヘミングウェイ自身は、61歳の若さで自殺している。

ドイツ表現主義の画家で、カンディンスキーと共に、青騎士という美術グループを結成した、フランツ・マルクは第一次大戦に従軍中に死亡している。人間に失望していたマルクは動物を主に描いた。従軍中もスケッチを欠かさず、死の間際には、「魂は滅することはないと分かり、安堵している」と言い残して亡くなった。

フランスの作家で、第一次大戦に従軍した作家のフェルディナン・セリーヌ。その体験を「夜の果てへの旅」に書き記している。欠損の激しい死体がいたるところに見られ、人間は死ねばただの糞袋に過ぎないと、過激に表現した。同作を現代文学の最高傑作に挙げる人は、いまだ少なくない。セリーヌは、その後、反ユダヤ主義者として国家反逆罪に問われ一時国を追われていた。同氏の墓碑銘にはたった一言、「否」と書かれている。

若者の手記という形だった物語は、蝶を無心で追いかけた若者の物語となり、そして時を経て新たな物語として、ここに甦った。だが何度変遷しても、何も変わってない。

戦場にも鳥はいる。鳥はこう哭いた。

「プーティーウィッ?」
開明獣

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