このレビューはネタバレを含みます
主役はセシリア・チャンとラウ・チンワン。
セシリア・チャンが演じるシウワイの何とも愛らしいカットと夜道を走る1台のミニバスのカットが交互に映る。
ミニバスの描写に漂う緊張感に、始まって早々、嫌な予感が…
いきなりの悲劇の幕開けに面食らう。
婚約者のマンを失ったシウワイ。
あまりにも突然のことで、脳と感情と身体はバラバラで結びつかず、涙すら満足に流せない。
幸せの絶頂から不幸のドン底に叩き落され憔悴しつつも現実は待ってはくれない。
彼の連れ子を女手一つで護り、がむしゃらに生きることで精一杯な姿に、観ていて胸が締め付けられる…
廃車同然な彼の形見のミニバスを修理し、ミニバスで生計を立てようとするシウワイ。
ど素人な彼女がしたたかな世界で生き抜くにはやはり無理が…
ラウ・チンワンが演じるマンの同僚ファイがそんな彼女を見かねて手を貸す。
ぶっきらぼうだがさり気ないファイの気遣いに、次第にシウワイの止まっていた心が動き出す。
ぎこちなく手を繋いだ二人の姿に、何だか自分の事のように嬉し恥ずかしい気持ちになった。
不器用な二人、いっぱい幸せになって欲しい。
そんな思いで観ていたのだが…
ファイもまた、人知れず悲しみを背負って今を生きていた。
惹かれ合いながらも過去に縛られる不器用な二人。
“でもそれって愛情かな
寂しいだけじゃないか?
別の人間を想いながら…
ベッドで抱き合っても…”
ファイの言葉にはっとした。
薄っぺらな同情だったかもしれない。
心から誰かを想う。
手を取り人生を歩んで行く。
誰かの代役なんかでなく。
ミニバスのナンバープレート“1314”に込めた想いは叶わなかった。
手を振り消えていくマンの後ろ姿。
ラストシーンのシウワイとファイのやり取りがたまらなく愛おしい。
目新しくはないかもしれない。
だが、地味ながらも人の心を丁寧に描いたストーリーと、弱さも強さも併せ持った人間らしいキャストの演技が絶妙に相まって、とても素敵な映画だった。
香港のミニバス事情も面白かった。
後味は、悪くない。
あまり知られていないようだが、是非多くの人に観て欲しい映画だ。
※タイトルの“忘れえぬ想い”
人間は簡単に忘れる事なんてできない。
忘れなくてもいい事だって、きっとある。
今の気持ちに正直に、1番は1つじゃなくても、きっといい。
心の中にそっとしまっておいたって。
“めぞん一刻”の不器用な二人(響子さんと五代くん)を思い出しちゃいました。