あきらっち

世界最速のインディアンのあきらっちのネタバレレビュー・内容・結末

世界最速のインディアン(2005年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

薄く霞んだ青空の下、
見渡す限り真っ平らで雪のように白い大地が広がる。

地上最速の聖地 ”ボンネビル・ソルトフラッツ“

流線形の真っ赤な”インディアン“が、
唸りをあげて地を這い疾走する。

止まる気はない
前しか向かねぇ

67歳の夢追い人“バート・マンロー”。
彼が40年以上も連れ添った相棒こそが、伝説のオートバイ“20年型 Vツイン インディアン”。

本作は1000cc以下のオートバイの地上最速記録保持者である“バート・マンロー”の実話に基づいた映画である。


脚色はあるだろう。
実際は自分勝手でワガママな夢追い人な部分もあったかもしれない。

それでも、貫き通した信念や、70歳を越えてなお夢へと挑戦し続けた情熱と行動力はまぎれもない事実だ。
ましてや聖地 ”ボンネビル”があるのは、彼の暮らすニュージーランドからすれば地球の裏側であるアメリカ・ユタ州。この遥かな道のりを飛行機も使わず計10回も訪れ記録に挑んだのだから、気の遠くなる程の意思の強さに驚愕する。

映画は陽気で人懐っこく誰からも愛されるキャラクターとしてバートを描く。
能天気で無鉄砲ながら夢を叶える彼の人生だが、綺麗過ぎだとか出来過ぎだなんて思わない。

彼が人間として魅力に溢れ、誰からも愛されたからこそ、これだけの信念を貫き通せたのだろうし、果てしない挑戦を続けられたに違いない。

老いてなお、枯れることのない人間バートの魅力。
常に前向きに、挑戦し続けた生き様に、ただただ称賛の気持ちでいっぱいだ。


バート・マンローを演じるのはアンソニー・ホプキンス。
彼の代名詞とも言える”羊たちの沈黙“でのレクター博士が強烈過ぎて、本作の彼の演技とのギャップがとても新鮮だ。当たり前だが、こちらの方が素のアンソニーに近いということだが、とても愛らしく、この人の演技の幅を見せつけられた。子役とのやりとりや、聖地での涙、歌いながら小躍りする彼の姿はたまらなくキュートで、観た者の心を心地よく温めるだろう。まさしく名優だ。

そしてこの映画のもう一つの素晴らしさ。
登場人物全てに愛が溢れ、嫌味が全くない。
こんなにも人間の良心に溢れた映画も珍しい。
それもまた、バートの人柄が引き出す魔法だったのかもしれない。
30年もかけて映画化した監督もまた、彼の魔法にかかった一人に違いない。

クライマックス、命をかけたレースシーン。
胸の高まりと鼻の奥をツンとする何かを抑える事など、私にはできなかった。

1967年に彼が打ち立てた世界記録は、50年経とうとする今もなお、破られてはいないという。

素晴らしい映画と、素晴らしい人物。
出逢えた事に感謝。
あきらっち

あきらっち