Jun潤

春に散るのJun潤のレビュー・感想・評価

春に散る(2023年製作の映画)
4.1
2023.08.26

横浜流星×佐藤浩市×窪田正孝×瀬々敬久監督・脚本。
これまでにその肉体美を魅せてきた横浜流星と窪田正孝を中心に、その周りを佐藤浩一や片岡鶴太郎哀川翔小澤征悦などの実力派俳優陣が固め、ただのボクシングムービーにはしないだろうという安心感のある瀬々敬久監督が引き締める。
ボクサーという儚くも気高い人種と『春に散る』というもうベストマッチ感しかない匂いに期待値は満タンです。

タイトルマッチで判定負けをしたという共通点を持つ二人のボクサー。
アメリカに渡り帰国してきた老いたボクサー広岡仁一と、夢破れ落ちぶれていた若きボクサー黒木翔吾。
春、桜の花が舞う頃に二人は出会った。
また桜が咲く頃へ向けて、二人は練習、試合、それぞれの体に迫るタイムリミット、己がボクシングて叶えたかった本当の想いに向き合っていく。
そしてボクシング界では、世界タイトルを獲得した日本人ボクサー・中西利男と黒木のタイトルマッチを組もうとしていた。
無謀とも思える挑戦、最初こそ今後のことを考えて試合に出るかどうかで衝突していた二人だったが、ボクシングに対する純粋で一番熱い想いが、やがて二人をリングへと導く、それがたとえ春の間に散ってしまう桜のようだったとしてもー。

いやこれは良いボクシング映画。
ボクシングのルールや戦略性などを知っていなくても、仁一たちセコンドや観客、視聴者たちの声なき声を拳の交わし合いに形を変えて成しているドラマとしても、表情やセリフを排して拳一つで演技の殴り合いをする映画としても、そして親からの愛、親への愛などの動機を超えて目の前の敵を倒そうという人間的な本能を表す場としての熱量が最大限発揮されていました。

キャラクター、特にボクサーの中で、練習や葛藤が描かれていた黒木ではなく、中西の方に考えが向いてしまいます。
描写が最低限だったので想像の域でしかありませんが、むしろ最低限の描写だけでこれだけの想像の余地をくれた窪田正孝の演技力と瀬々敬久監督の手腕に感服しますね。
中西が初登場したタイトルマッチ後のインタビューで相手について研究をしたと語っていたり、御法度とされている試合予定の選手の練習に踏み入ってきたり、黒木から何が怖いのかと問われた時に煽るような態度をとっていても黒木のことを指していたりと、タイトルを嵩に着て練習や研究を怠ることなく、相手への恐怖と尊敬を持った上で試合に臨む選手ではないかと思いました。
そう考えるともしかした黒木の試合会場でスマホに見入っていたのは過去の黒木の試合動画を見ていたのかなとも思えて面白いですね。

なんだか最近の映画全般についても言えますが、今作は終わり際がちょいと残念でしたね。
序盤であれだけ生に執着していた広岡が、自分の命を犠牲にしてでも黒木の試合を見届けて、まさに『春に散る』桜のように命を散らし、タイトルを出して終わり、で十分過ぎるほどに良かったと思いました、むしろそれの方がもっとスコア上げていました。
それにその後に続いたのが黒木の今後で、特に中西との試合後の反響や体の変化などを描写せずに、また春が来れば咲く桜のように再スタートを切ったと良い方向の終わり方となっていましたが、むしろそれなら春を必ず迎えられるとは限らないという方向でも個人的には受け入れられると思いますね。
Jun潤

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