ヨーク

Iké Boys イケボーイズのヨークのレビュー・感想・評価

Iké Boys イケボーイズ(2021年製作の映画)
3.4
この手のB級を越えたC級どころかZ近くまで見えているんじゃないのかという映画に対する俺の「結構面白かったよ」はすでに何の説得力も持っていないのではないだろうかという気はするが、結構面白かったですよ。大方の予想通りにぼんくら感やポンコツ感がすごい映画ではあったのだが、まぁそれを持ってしてB級やC級だ! 安い! しょぼい! 下らない! といっても本作を観に来るような客ならばそんなもんはとっくに織り込み済みだろう(少なくとも俺はそう思っていたし、何ならもっとしょぼいだろう思ってた)というところがあるのでぶっちゃけそこは減点ポイントとはならずに、むしろ愛すべきバカ映画感が上乗せされたと言ってもよい部分であったろうと思う。
ちなみに本作のタイトルの表記は『Iké Boys イケボーイズ』となっていて俺は“Iké”っていうのが何なんだろうと上映前に色々考えていたんですよ。R.I.P.みたいな慣用句的表現からさらにスラングされたようなものの一種なのかなぁ、とか思ってたんだけど、これが中々にズッコケる顛末で“Iké”というのは作中で興行的な大コケにより制作会社を倒産せしめたという架空の伝説的な日本の特撮アニメ映画『行け! 虹の世紀末大決戦』という作品の“行け!”の部分なのである。つまり日本語表記すれば「行け! ボーイズ」ということである。『行け! 稲中卓球部』みたいですね。わざわざ『イケボーイズ』という表記になってるからなんかあるのかなと思ったら別に何もないのかよ! という脱力ぶり。もうこのタイトルからしてただ者ではない感がビンビンするであろう。
お話は1999年、アメリカはオクラホマ州の田舎が舞台で主人公は冴えないナードの高校生男子二人。白人のショーンとインド系のヴィクラム君は日本のアニメや特撮が大好きなスクールカースト最下層まったなしな二人なのだが、上記した架空の日本の幻のカルト映画のDVDを二人が入手したところから映画は始まる。そしてその同日、ショーンとヴィクラムにとっては唐の時代に玄奘が憧れた天竺と比べても遜色はないと言っても過言ではない地、日本から一人のメガネで黒髪で前髪ぱっつんで奥手な片言英語を話す地味目な女の子というオタクの願望が炸裂しているような女子がヴィクラムくんの家に留学生としてやってきたのである。これは是非彼女と一緒に『行け! 虹の世紀末大決戦』を鑑賞せねば! となる二人。そして一緒にその映画を観るのだが、鑑賞後に彼らはその劇中に登場する3人と同じような特殊能力を手にしてしまい…という感じのお話ですね。
オタクな監督がオタクなカルチャーに影響を受けて自分なりのオタク映画を作ってやろう、しかも思春期の子供がある日突然超常の力を手に入れる、というあらすじまで一緒というところではジョシュ・トランクの『クロニクル』なんかを思い出してしまうが『クロニクル』がシリアスなトーンで超常の力と十代の若者の友情を描いていたのに対して本作はめちゃくちゃ緩い。彼らが見た『行け! 虹の世紀末大決戦』は世紀末が舞台で世界を滅ぼすために古代の邪神を復活させようと企むカルト宗教が主人公たちと戦うという内容で、それは岩松了演じる『行け! 虹の世紀末大決戦』の監督が未来を幻視してその破滅の未来を防ぐために予言の書的な意味で作り上げた映画という設定なんですよ。その映画から掲示を受けたオクラホマのへっぽこオタクたちが実際に超能力を手にしてしまって予言通りにヘンテコなカルト宗教の団体も現れるわけだが、まぁなんというかオクラホマの片田舎感がすごいんだよね。いやオクラホマ行ったことないけどさ! でも田舎の地方都市の良くも悪くものんびりしたスケールの小ささっていうのがよく出ていてとてもいいんですよ。本作の描写はもうどう見ても世界の危機になんて見えないからね。『クロニクル』では思春期のガキ特有の視野の狭さがひっ迫した緊張感を生んでたけど本作は本当に緩い。
だが、緩いは緩いなりに思春期のガキ特有の視野の狭さは物語の中にちゃんと組み込まれており、ショーンとヴィクラムの二人の友情が揺れ動くさまは特に緊張感とかはないけど、こういうことあるよな~、って感じで切なさを感じたりもして良かったですよ。俺個人の経験でいうなら、中学生の頃に超仲いい友人数人がいていつも一緒にゲームしたり映画見たりカラオケ行ったりしてたんだけど、ある日俺がレンタルで見ていたく感動した岡本喜八の『日本のいちばん長い日』を一緒に見ようぜ! って薦めたんだけど、いやそういうのはいいわ…モノクロだしあんまおもんないでしょ…と断られて俺は酷くショックを受けたのだった。まぁ今にして思えば中学時代の友達が『日本のいちばん長い日』を一緒に見ようと言ってくるとか断られて当然だと思うが、当時の俺は「コイツらなら分かってくれると思ったのに…!」という気持ちがあってがっかりしたんですよね。本作でもそんな感じの友情のすれ違いがあって結構グッときてしまいましたよ。まぁ特にそこまで盛り上がるドラマではなかったが…。
あとはあれだな、本作は釈由美子が結構重要な役どころで出演しているのだが彼女の存在感はやっぱよかったな。個人的に世代としては彼女はヤンマガのグラビアで人気が出た後に天然ボケなキャラがウケてテレビバラエティによく出てたイメージなのだが、テレビドラマの『スカイハイ』や映画の『修羅雪姫』でそういうほんわかした女の子というイメージとは真逆の姿を見せつけてからはどんどんいい役者になっていったなぁという感じなので本作でも出番は少ないにも関わらず鮮烈な印象を残していて、この監督は釈由美子の使い方を心得ている! と思いましたよ。だってほんの数秒しかなかったけど釈由美子がダンビラを構えるシーンがちゃんとあったもん。ダンビラを構えた釈由美子の格好良さは異常ですからね。今からでも遅くないから『修羅雪姫』の続編かリメイクを撮れよ! って思っちゃったよ。
まぁ映画全体としてはお世辞にも出来は良くないし、せっかく特撮がテーマな映画なのに肝心のバトルシーンはアニメで描かれる(スーツや着ぐるみは用意されてるのに!)というのが不満点としてはあるが、本当に愛に溢れた幸福な映画だなっていう感じでしたよ。ラストに出てくる邪神のデザインとか本当に酷いけどな!
でも出来の悪い子ほどかわいい、じゃないけどさ、でもこれだけ好きなものを好きだと全面にお出しされたら確かにいいよなー、ってなっちゃうんですよね。特に何の意味もないのに結構がっつり長めに『宇宙刑事ギャバン』の主題歌流してくるからな。完全にアホだと思うけどそんな奴嫌えるわけないじゃん。
そういうわけなので結構面白かったですね。
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