ルサチマ

はこぶねのルサチマのレビュー・感想・評価

はこぶね(2022年製作の映画)
3.9
所々杜撰さはあるにせよ、丁寧に物語っていく心意気がいい。盲目の男の触覚を描きこむことに神経を注いでいるのに対し、叔母やその他の人物が手触りへの目配せをしないことが際立つ(役者の女を例外として)。それだけに段取り臭すぎる点も目立つ。とりわけ叔母が部屋の明かりを消す動作を描きこむ際に、彼女へカメラを向けるべきだったかどうかについては疑問だ。というのもここでのカメラの向け方は全体のうちの些細な要素にしかすぎないが、然しこの些細な眼差しの向け方というのはその後の叔母と認知症の祖父の描き方を貫いているように思える。どうも主人公を取り囲む年増しの人間たちについては設定=キャラクターの図式に陥っているように感じられ、身振りについても台詞そのものにどうも引っ張られている印象が強い。祖父や叔母はむしろ台詞に頼らざるを得ない人間である以上、彼/彼女らの台詞のあり方についてはもっと細かく吟味されるべきだ。
それとは別に気になったこととして、役者の女であるヒロインの存在は果たして如何なる役割を果たしていたのか。もちろんそれは夜のドライブに繋がるのだろうが、彼女が抱える問題は盲目の同級生とは別に存在するはずで、このドライブ体験が彼女を再び東京へ戻らせるきっかけにはなり得ないと思われる。ならば、彼女が抱える問題は盲目の男とは関係なしに描きこまれるべきではなかったか。
彼女の身の置き所のなさ(病院で目を覚ました母のそばでやたらと起立しては座るのは過剰な気もするが…)は、もしかするとこの映画をさらなる飛躍へ持っていけたようにも思えて物足りなく感じてしまったのが残念。
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