かこ

はこぶねのかこのネタバレレビュー・内容・結末

はこぶね(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

今までこんなにも寄り添いたいと思った作品はあっただろうか?

ときどき空を見上げる西村。
一体何を見て何を思っているんだろう?
もしスクリーンの中に入れたら、西村に駆け寄り聞いてしまうと思う。

わたしはその人から感じられる雰囲気や空気感にとても惹かれるほうで、西村からもその独特な空気感が感じられた。

一言一言、一歩一歩、言葉や歩幅を置くように生きる西村にとても興味が湧いた。
それは視覚障害だからとか、西村の過去を知りたいとかそういう事ではなく、不器用なところがとても人間らしかったから。

西村が住む綺麗な海辺の町は潮風で錆びつき、取り巻く環境は介護問題などで、決して穏やかとは言えないと思う。
介護に関しては介護する方、される方とでは自然に心のすれ違いが起きてしまう。
仕方がないと言ってしまえばそれまでだけど、
他に頼り、窮屈な心のすれ違いを一旦手放すのもお互いの為だと改めて思った。
映画では、ゆったり流れる時間がそんなリアルな日常の輪郭をよりハッキリと浮き彫りにしていた。

それなのに西村は心や耳で冷静に周囲を見渡し、少々ざわつきがちな外の世界と自分の世界とを上手に行き来しているように見えた。
ブレない自分軸を持っているようだった。

情けなさや不安、期待や喜びを感じていれば透明人間になることはない。という言葉も心にとても響いた。

生きていればカラフルな感情もあれば、時には白黒もある、そのときに感じた思いに正直に色を付けて自分の存在を確かめているんだなぁ、と勝手に想像してしまったけど、どんな感情もうやむやにせず、確かめながら生活するということは、"生(せい)" を実感することで、強くて素敵なこと、まさに視覚に頼らず生きるということだ。
完璧じゃなくても"自分"をきちんと生きることを西村に教わったのです。

わたしは鑑賞後も西村の後ろ姿がしばらく脳裏から離れなかった。本当に会えそうな気がするし、どこかに居るのではないか、と今でも思っています。

ゆったり流れる時間と間(ま)が心地よく感じる映画『はこぶね』に出会えて幸せです!
かこ

かこ