サマセット7

オットーという男のサマセット7のレビュー・感想・評価

オットーという男(2022年製作の映画)
4.1
監督は「007慰めの報酬」「ワールドウォーZ」のマーク・フォースター。
主演は「フォレスト・ガンプ/一期一会」「プライベート・ライアン」のトム・ハンクス。
原作は、スウェーデン映画「幸せなひとりぼっち」。

[あらすじ]
アメリカ南西部ペンシルバニア州ピッツバーグにて。
一人暮らしのオットー・アンダーソン(トム・ハンクス)は、偏屈もの。
スーパーでは店員にクレームを述べ、近所を自主的にパトロールして、規則違反を取り締まる。
勤務してきた工場を定年退職し、彼は自らの人生の幕を閉じようとする。
しかし、決行しようとしたその時、向かいの家に新たな隣人が引っ越して来て…。

[情報]
スウェーデン映画「幸せなひとりぼっち」のハリウッド版リメイク作品。
原作映画自体が、スウェーデンの作家フレデリック・バックマンの同題の小説を原作としたものである。

監督のマーク・フォースターは「チョコレート」「ネバーランド」「007慰めの報酬」「ワールドウォーZ」など、非常に多彩なフィルモグラフィーを持つ。
ドイツ生まれ、スイス育ち。

主演のトム・ハンクスは、1993年「フィラデルフィア」、1994年「フォレスト・ガンプ」で2年連続のアカデミー賞主演男優賞を獲得した名優中の名優。
出演した名作は数知れず、自ら監督や製作を担当することもある。
今作では、製作と主演を担当。

ジャンルはヒューマンドラマ/コメディ。

今作は5000万ドルの製作費で作られ、1億1000万ドルの興収を上げた。
製作費比ではそれほど伸びなかった、と言えようか。
批評家の評価はそこそこだが、一般層から非常に高い支持率を受けている作品である。

[見どころ]
トム・ハンクスの熟達の演技を堪能!!!
じんわり感動させるヒューマンドラマ!
誰もに刺さる、明確なテーマ性!!
高齢化が進む今こそ観るべき映画!

[感想]
これはいい映画!

カメラは一貫して主人公の視点を離れない。
ほぼトム・ハンクスの演技を楽しむ作品、と言っても良い。
主人公のオットーは理に合わないことを直言し、「バカもんが」が口癖の、偏屈ジジイ。
常に眉根に皺が寄っている。
しかし、トム・ハンクスが演じることでコミカルさと善良さが滲み出る。
俳優のキャラクターであろう。

わざわざハリウッドでリメイクされるだけあって、ストーリーの良さは折り紙つきだ。
自殺を試みようとするも、なんだかんだ近隣住人の日々の営みに巻き込まれて、遂げられない、というメインの筋はそれだけで面白い。
そんな中で、徐々にオットーの半生、偏屈になった理由、自殺を考える理由、そしてオットー自身の変化が見えてくる。
一見バラバラのエピソードが、思わぬ結果に収束していくあたり、痛快だ。

近所に引っ越してくるメキシコ人の妊婦マリソルを演じるマリアナ・トレビーニョがいい味を出している。
近所付き合いの煩わしさと、裏表の交流の素晴らしさ。
マリソルは、オットーの計画を邪魔してばかりいるが、彼女がチャーミングなために嫌味がない。
バランス感覚が見事だ。

総じて、コミカルさと、切なさと、優しさを兼ね備えた、優れたヒューマンドラマ、と感じた。

[テーマ考]
今作は、人間の生きがいについての話だ。
オットーは、最愛の人を失い、仕事も退職し、生きる意味を見失って、人生の幕引きを決意する。
それは、人生100年時代において、誰もに訪れる可能性のある、老境の風景。
そこで、生きがいになるのは、何か?
それこそが、今作のテーマであろう。

今作の、オットーが1人でいるシーンは、全てが過去に向かっている。
一方で、オットーが近所の誰かと一緒にいるシーンは、そのほとんどが未来に向かっている、と見える。
人は、他者との関係との中でこそ、前に進める生き物なのだ。
生きがいに関する今作のメッセージは、オットーの他者とのかかわりの中にある。

[まとめ]
名優トム・ハンクスの演技が光る、ヒューマンドラマの佳品。

1番好きだったシーンは、オットーが奥さんと出会ったエピソードかな。
男女の出会いのシーンとして、素敵です。