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シモーヌ フランスに最も愛された政治家のMISSATTOのレビュー・感想・評価

3.8
今の与党政治(自民党、大阪/関西圏なら維新)に決定的に欠けているものが何か、その欠けているものが民主主義社会を形成するのに如何に大事であるかがわかる映画だった。
1人のフランスの政治家の伝記映画と思わず、見てほしい。

私も、シモーヌ・ヴェイユという政治家がフランスにいたこと、強制収容所から生き残ったユダヤ人であるということはなんとなくしか知らず、ほとんど知識ないままに見に行った。
だけど、その生涯を映画で鑑賞したことで、政治家のあるべき姿を見ること出来た。

映画としては、時代があちこちに飛ぶこともあり、見ながら一体どんな時代性があったのか意識しないといけないので、ボーっとは見ていられない。
ただそれは、老年のシモーヌが自叙伝のために、思い出せるところから、そして心理的に執筆できると思えるところから書き出している思考を、私たちが映像で追体験をしているだけなので、違和感はない。

映画の冒頭は、1974年の人工中絶が犯罪扱いになる当時の法律を改正するための議会討論で保守男性議員が酷い答弁するシーンから始まる。
今の自民党や維新の議員が発する差別的で、国民を冷笑する姿勢に重なるものがある。(映画の中で描かれる、そして現代の、フランスの政治家のような言葉の巧みさは日本の政治家にはないので、日本政治の幼稚な印象が増すばかりだが…)

それでも当時のシモーヌはすでに保健相だったし、人権とは、人道的人間性とは何か、という社会的共通理解があったし、それを曲げる一端に宗教的価値観があることも見て取れる。

映画を見ていくと、政治家となるシモーヌのベースには、両親、特に母親の世俗主義に基づく宗教などで人を差別しない考えや、人と違うことを否定せず子どもでも一人の意見として耳を傾けることや、(たとえ自分が弱っている時でも)目の前の弱っている者や虐げられてる者を助けようとする姿勢があるのだと分かる。
彼女が当初弁護士を目指したことも、司法官から仕事を始めたことも、保健相として仕事した時、欧州議会の議長となった時も、それらを体現し続けているに過ぎない。一方で続けることの難しさも映画は描いている。
そこには周囲との対話と理解と支持と、変化に反発する者が多くいるように見えても、彼女の論理的でありながら人に寄り添う言葉を通して、気付き、より良い社会で生活するために思考することを躊躇しない人間たち(が作り出す国家や共同体)が存在していた。
ひとつひとつの事案を見るたびに「これが政治家の仕事か」と思わざるをえなかった。

役者も素晴らしい。エルザ・ジルベルスタインもだが、若きシモーヌを演じたレベッカ・マルデールや、シモーヌの母親イヴォンヌを演じたエロディ・ブシェーズ、シモーヌの姉マドレーヌ(ミルー)を演じたジュディット・シュムラの演技は、役どころの個性を強く感じさせてくれるものだった。
個人的に、Netflixドラマ「LUPIN/ルパン」で、アサンの相棒の骨董屋バンジャマン・ファレル役を演じているアントワーヌ・グイがシモーヌの顧問役(ジャン=ポール・ダヴァン氏)として登場していたのは嬉しい驚きだった。

集中して一気に見た方がいいタイプの映画なので、映画館で見れる方はぜひ。
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