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ゴジラ-1.0のslowのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.9
【ノーラン監督が日本人として生まれていたら作ってたかもしれないゴジラ映画】

第一印象は二つの異なる映画を交互に見てるかのような不思議な感覚で、後半からはノーラン監督作『ダンケルク』を見てるかのような体感だった。

政府視点で描かれた『シンゴジ』とは対をなす存在で、政府や立派な軍隊の姿もなく、陸での戦いも少なく、ほとんどの攻防が「海上」で繰り広げられる。
わずかな兵器と少数精鋭でゴジラに立ち向かう様は『ローグワン』に近い。

ただ難点のドラマパートは「ザ・日本映画」らしくて、舞台俳優の過剰な芝居を見てるみたいで冷める部分は多々あったし、サイコパス演技が似合う神木くんに感情爆発させる役柄は荷が重いなと感じる部分はあったものの、定期的にゴジラが浮上して盛り上がるシーンはあったし、ゴジラの暴れっぷりが暴力的かつ破壊力の圧が凄まじくて、劇場で見るにふさわしい一本!

個人的に良かったのは「戦後初期の日本」を余すことなく描いてくれたことだ。
焼け野原になった日本を憂うように流れる悲壮感に満ち溢れた劇伴が本作の内容を象徴していて、あの時代を舞台にしたからこそ描くことができたゴジラ作品だったなと。

海外や政府の助けもなくゴジラと対峙するなんぞ理不尽な詰将棋をやってるようなもの。
それでもわずかな希望を信じて立ち向かう勇姿は今の日本人よりもあの頃の日本人のほうが果敢に立ち向かってただろうなと妙に納得がいくところがあった。

「俺たちの戦争はまだ終わっちゃいない」

そんな言葉が作中にも出てきたように敗戦を経験して生き残って“しまった”日本人達の心の傷に正面から突っ込んだ作品といえる。

そういった戦争が生んだ負を裏のテーマとして掲げてる内容だから心にガツンとくるものがある作品なのだが、いかんせん「芝居感」が強すぎて心が動きずらく「惜しいな」という気持ち。

一人の男のドラマを描くのなら「彼の人生そのもの」を描いてほしかった。
『スラムドッグ$ミリオネア』のように“自分がこの世に生まれた事、死にきれなかった事には意味があって、今ゴジラと対峙してるこの瞬間こそが自分の存在意義を示す時だ!”みたいな、劇的な昇華があれば熱い涙がホロリとこぼれてたのになと。

もう少し深掘りしたドラマが堪能したかったし、行動の意図を分かりやすく言葉にせずに“役者の顔の表情で心の本音が伝わる演技”を見たかったシーンがいくつもあった。

この素材をハリウッド映画監督に任せたらもっと素晴らしい大作映画が作られただろうなとむず痒い気持ちで劇場をあとにした。
とてもいい映画なんだけど、起爆剤がうまく起爆してくれなくてもどかしい、私にとってはそんな作品。
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