ねつき

怪物のねつきのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.1
「怪物だーーー…れだ」

重い。

重い、母の気持ち。
重い、若き教員の未来。
重い、少年時代の輝き。

重い、しんどい。誰視点の話も、どこもかしこも、蔑ろにできない。誰が悪いの?怪物は誰?決められないよ、残酷なタイトルだな。

全部で3パートの話があるよね。母、教師、子供。この3つの話で悪く描かれていた人…例えばヨリの父親とかだって、父親主観の話になったらそう見えなくなるんでしょ。だってそういうことだもんね、母の視点で描かれてたほり先生と、ほり先生視点、子供達視点で描かれたほり先生とじゃ別人だもんね。それを目の当たりにされて映画館から放り出されて、劇場を振り返ってジャケを見たら「怪物だーれだ」って、そんなのないよ。
この中から悪者を1人決めろと?そんなことできないってわかってるくせに。

実体が、ないんだよ。悪意にも、善意にも。本気にも嘘にも実態がないんだよ。「うがった見方してるから、そう見えるんじゃない?」って高畑充希のセリフ、あれ私に言ってたんかい。思いがあるのに、なんですれ違うんだろう。


私も教員だった。子供達のために一生懸命な先生やってた。でも、私のせいで不登校になった子がいた。親に怒られた。今思うとあれは、怒ってたんじゃなくて悲しんでたんだな。でも私だって同じだ。
その子のためを思って、本気で指導した結果傷つけて、不登校に。でも思いがあったんだよ。お母さん、私彼女のこと本当に仲間だと思って言ったんですよ。話せばわかってくれるはずだ、だって後ろめたい気持ちなんて全くなく、ただ純粋に、彼女のためを思って行動したんだから。なんで伝わらないかな。お子さんのこと大切に思ってるんですよ。言葉届かないな、もう無理なのかな、一生懸命指導することって迷惑なのかな、なんかつまんないな。私のやってることってなんなんだろうな。

旦那も教員だった。この春、採用試験に受かって正規の教員として働くはずだった。体罰で処分を受けなければ。
旦那は何もしていない。指導する際に足が当たっただけだ。それを「蹴った」だって?そんなバカな。保護者会で見方をしてくれる保護者がいたらしい。該当の生徒たちの反省の色は?旦那はそんなことする人間じゃありません。教頭先生は「こんな結果になってしまって奥様には申し訳ありません」って私に頭下げた。校長は「奥様にそんなこと言われましても私からは謝罪できません」と。なんでこうなる前に守ってくれなかったの?なんで申し訳ありませんで片付けるの?子供達にも未来はあるけど、それも大事だけど、私の旦那の、教員としての未来は?若き教員の夢は潰していいの?誰が悪いの?誰が怪物?あの時の教頭先生、校長先生、保護者、この映画を見て何を思うの?????


重い。重い…
私には重すぎる。見て見ぬ振りしたい。誰にだってその人が主人公のストーリーがある。安藤サクラはいい母親だ、彼女のストーリーの中では。
世の中の全てを自分を主人公のストーリーに書き換えてしまう、子供って最強だ。結局、第三の話が真実みたいに思ってるもんね。全部真実なんだけどさ。


やっぱりさ、多角的に物事捉えると、誰が悪いとか誰が正しいとかないし、みんなそれぞれが思う「正しさ」「優しさ」のなかに生きているので、誰のことも恨めないし、私はこれからも、誰とも喧嘩ができないんだ。
「生きていて9割のことは楽しいし、世の中の人の9割は優しい」って、私ハタチの時から言っているけど、いよいよ確論になってきたな。みんなそれぞれの正義で動いているのだと思うよ。


呼吸が浅くなって、自分の息を吸う音がレイトショーの劇場に鳴る。台風から抜けた後の山はなんて綺麗なんだ。大人になっても、ああやって走り回っていたい。爽やかな風、2人だけの世界。大人が追いかけてこようと関係ないよ、子供は最強、じゃなくて、「夢中は最強」だから。
怪物なんていない。この映画の中にも、この世の中にも。頭の中に何の脳を飼ってるって?うるせー私の中の正義に従って生きるんじゃ。
この世界で育っていくには、子供達は危うすぎる。
大人って生きるの楽だな。昔はもっと辛かった。



教員に戻る未来、あるのかな。
わからないな。
ねつき

ねつき