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怪物のdramaticgasのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
5.0
監督是枝裕和、脚本坂元裕二、音楽坂本龍一、主演安藤サクラという邦画界の役満を揃えた、良い映画なのは約束されたムービー。

「取るに足らないような会話が、後から振り返るとかけがえのないものだったり、実は人生を変えるようなインパクトを持つものだったりする」の名手である坂元裕二にとって、コミュニケーションの断絶をメインテーマに据えた本作は、十八番を封じられたチャレンジングであり(だからこそ)重要なものなのだと思う。組織を守る為に意図的に人同士のコミュニケーションを成立させないように振る舞うものと、家族を守る為に何とか会話を試み、遂には個人が痛みを感じるであろう部分に土足で踏み込むことで相手を人間にしようとするものは、どちらも互いにとって恐ろしい怪物なのだろう。そんな現代社会においてありふれ光景も、是枝監督の演出と安藤サクラの異次元の演技力によって増幅されたエンパシーによって、観客にある種の呪いをかけることに成功している。

視点を変えていくことによって種明かしした後も、説明を省略し得体の知れないままの校長を、その表情と佇まいだけで彼女が本当は何者なのか体現する田中裕子は凄まじく、田中裕子恐るべしってなった。