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イニシェリン島の精霊のdramaticgasのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

雄大で美しい自然の中でおこるオジサンたちの小さく醜い争い。でも人間の争いのうち、小さく醜くないものは果たして存在するのか?なムービー。

なぜ突然そして頑なにコルムがパードリックを拒絶したのか。コルム自身の言葉も嘘ではないのだろうけど、ああまで過激な行動を選んだのは、ロバの糞の話を何時間もする男と自分が本質的には何も変わらないことを受け入れたくなかったからじゃないかと思う。

残された時間の少ない、そして、訪れる音大生から興味を持たれる程度の才能はあるが”老い”を覆して島の外の職を得られる程ではない(自らの能力で島の外に職を得たシボーンは勿論、ドミニクですら若さと可能性でコルムよりも島の外に近い位置にいる)自分は、望むかたちで島を出ることができないという点ではパードリックと同じであり、つまりはコルムの同族嫌悪だったのではないか。

終盤コルムがパードリックに歩み寄ったように見えるのは、(意図的ではないにしろ)最愛の子ヤギを殺されたパードリックが、コルムのことを自分とは違う種類の人間だとみなしたからかもしれない。

シンプルな寓話的な物語でありながら、同時に超ハイコンテクストでもあるという矛盾するような作品であるが為に、観客側もどう受けとめたら良いか分からないと、真理を得たが同居する、そんなマーティン・マクドナー監督にしか撮れない映画は、それだけでマストシーだと言える。