dramaticgas

オッペンハイマーのdramaticgasのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
ヒトの手による最大音と最強光を創造した男の(世界を破壊する程に)巨大なエゴと、そのエゴがもたらした結果への(人類の)後悔のムービー。

人類史上類を見ないリソースとインテリジェンスが注ぎ込まれた超巨大プロジェクトの顛末のスペクタクルも、ファムファタールたるジーン・タトロックとの退廃的で予め不幸な結末が確定していたような悲恋も、嘗ての英雄をも追放してしまう程のマッカーシズムの狂気も、(それを利用して私怨をはらす)ストローズの狂気にまみれた法廷劇も、本作のコア(核)であるとは言い難い。

オッピーの、そして(過去を含めた)全ての物理学者たちの、ひいては全人類の好奇心と探究心の果てにあったのは、世界を永遠に変えて(終わらせて)しまう特異点(罪)だったというハードSFこそが本作の核なのだ、但しこれはフィクションではないのだが。

ifを用いて歴史を語るのは虚しいことでしかないが、ナチが先にプロメテウスとなっていたとしたら、果たして彼らは見た目も文化も自分達とあまり違わないヨーロッパの隣国に対してその力を行使していたのだろうか、そして本作のオッピーも同じ疑問を持っていたように見えた。