H列7番目

怪物のH列7番目のレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.6
綺麗な話だった。
誰が怪物なのか、を探したり考えたりする話ではないと思う。そういう話だろうと思って(ほぼ事前情報なく)観たからこそ、すーっと、時につぅーっと、鼻先から入り込んでくるような映画だった。

二人の小さな人間が、自分の中に怪物を見て、それでも自分たちの世界で生きている、生きていく。そういう物語の中を覗かせてくれてありがとう、と感じた。

二人の物語の中に、大人の顔なんて出てこなかった。大人の台詞なんてただの雑音でしかなかった。唯一、劇中で最も悪しき存在であるように描かれた校長が、ありのままの彼にありのままの言葉(と音)をくれたくらいで、先生も、親でさえも、視界の外。

そんな中で、きっと引っかかり続けたのであろう"普通"や"男らしい"の単語たち。雑音の中にその単語だけが浮かび、自分はそこに当てはまるのか?その枠の中に収まっているか?小さな世界の中でそんなことを考える、考えてしまう自分のことが、どれほど怖く、恐ろしいか。

たしかに小学生の頃、自分もこんな視点で生きていたよな、苦しいことも、人に話せないことも、小さな細い身体の中に詰め込んで、こんな風に走っていたな、と思いながら観る後半。

誰かにしか得られないものは、幸せじゃない。誰もが得られるものが幸せなんだ。
これから関わるであろう小さな人間たちに、そんな言葉をそっと鳴らせるような人間でありたいと思う。

湊の隣の席に座る女子生徒が、手に持っていた本がBLモノのような表紙で、彼女は湊に雑巾を投げたり猫のことを先生にチクったりと要所要所で意味ありげな言動をするのだけど、どんな意図があるのでしょうか、と考える私の脳みそは大人のそれなんだなあと、なんとも言えない気持ちである。
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