しんご

怪物のしんごのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.9
「化け物」は人間でないものが人間の形に化けたものである 一方、「怪物」は人間だけれど得体の知れないものを指すそう。その点で言うと、本作では同じ人同士なのにある人からしたら見ると「怪物」に見える視点が面白かった。きっと自分も誰かからしたら「怪物」なのかもと観る者に思わせる演出が光る。

黒澤明の「羅生門」(50)では1つの殺人事件なのに証言者によって真相が全然違っており、その謎を解明する話だけど、今作も羅生門を彷彿させる三幕構成となっていたのが印象的。早織にとっては学校関係者が怪物だし、怪物扱いされた保利先生にとってはそんな早織や伏見校長達が怪物だし、さらに湊・星川にとっては周りのほとんどが怪物に映る、といった様に各人視点のパートで怪物が増えていくのは誰が悪い訳でもない分切ないし、人同士の相互理解の難しさを痛感する。

湊がドッキリ番組を見てたシーンみたいに、自分も映画というフィルターを通すことで今作の登場人物達を俯瞰できたけど、現実は自分以外の視点に立つことって難しく、その点では皆あのトンネルの中の様に「闇」の中に生きていると思う。

ただ、湊と星川の間に最近のテーマを入れる必要はあったのかと疑問は残る。あれを入れなくても十分に作品としては成立しただろうと思った分、ちょっと蛇足な感じはした。あとラストは個人的に悲しさしかない。
しんご

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