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落下の解剖学のkabcatのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.8
予想以上にガッツリした法廷劇で、このジャンルがあまり得意ではないが、152分という長さも退屈することはない構成になっている。それは自殺か他殺か、という事実の追求よりも、家族それぞれの隠されたエピソードが次第に明らかになり、家族間のバランスが崩壊していくようすをじわじわと描いていくのがうまく、またキャストが魅力的だからである。

とはいえ結末はわりとあっけない感じで、最後に一捻りあるのかと思うとそういうこともなくそのまま終わる。映画では結局真実が明らかにされることはないが、最後のシーンからおそらく判決通りなのだろうなと観る側に思わせるようになっている(と思ったのだが、他の人の意見も見てみたい)。

映像でも新しさはあまり感じられない。冒頭犬の目線で描かれる箇所があり、そういうシーンが続くのかと思ったがそういうこともなく、脚本はよいけれど見せ方的には消化不良で、正直パルム・ドール作品としてはどうなの?と思ってしまった。

キャストは非常によく適材適所だと思う。ザンドラ・ヒュラーは『ありがとう、トニ・エルドマン』から注目していた女優さんだが、昨年あたりからブレイクしているようでうれしいことだ(ジョナサン・グレイザーの『関心領域』でも楽しみ)。今回もよき妻でもよき母親でもない女性を非常に冷静に演じていた。弁護士役のスワン・アルローがジョン・ローンと佐々木蔵之介を足したみたいだなあと思っていたら「ホット弁護士」というワードが挙がっていて笑った。また息子ダニエル役のミロ・マシャド・グラネール君のピュアな部分と大人びた部分の使い分けが絶妙でした。そしてこの映画で重要な役を務めるスヌープ役メッシ君の存在感!パルム・ドッグも納得でした。
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