かつての愛人リシャールの死の真相と政治的陰謀に迫る女記者を描くミステリー。
舞台はレイモンド・チャンドラーが創り上げた架空都市の名を引用し、登場人物の役名に映画監督ドン・シーゲル、ロバート・オルドリッチ、溝口健二等の名がフィーチャーされたゴダールの遊び心満載の作品となっている。
「MADE IN USA」のタイトルバックをアメリカ国旗の3色でもあり、フランスの三色旗でもあるカラーで飾った後、アンナ・カリーナ扮するポーラの呟きで幕開けとなる。
ドアのノックで銃を持ち、会話しながら鏡を見て、靴が凶器となり絵の具のような血が流れる。
日常から非日常、鏡像と正像、虚構と現実がホテルの部屋で刹那的に過ぎる。
左翼政治家失踪事件をヒントに書かれた小説の映画化だが、原作のプロットを借りながら、謎解きの合間に詩や文学が遠慮なく割り込む。ミステリーの中断、プロットからの逸脱は随分と退屈だった。
主軸となるリシャールのフルネームは車のクラクションや飛行機の轟音などが遮るが、その意図が解らなかった。
マリアンヌ・フェイスフルのアカペラからジャン=ピエール・レオを映し、アンナ・カリーナの横顔から正面に切り替わるアップショットがお気に入り。
アメリカの消費社会を皮肉るようにディズニー等の看板が背景に溢れ、原色による鮮やかな外壁や内装、ポスターを背にアンナ・カリーナが佇む。
それらのショットは、他の監督であれば「あざとさ」を感じるがゴダールはポップアートへと昇華させている。
しかし、ゴダールによるアートがフィルムの表面を流れるだけで、そこに緊迫感や情感が抜け落ちていたのが残念だった。