Ryoma

せかいのおきくのRyomaのレビュー・感想・評価

せかいのおきく(2023年製作の映画)
4.2
白黒のモノクロで綴られる江戸時代末期の3人の若者の群像劇。紙屑拾いや下肥買いという当時の最下層と呼ばれる身分、職や上位層のまるで汚物を見るかのような冷ややかな視線などの彼らに対する酷い差別・偏見、同身分の者と婚約し一緒になるという古いしきたり・習慣いわゆる“陰“部分にスポットが当てられながらも、そこで逞しく自分らしく生き抜こうとする3人の姿が、ギャグや冗談交えた他愛のない会話がユーモア交えて描かれていたり、主役3人が身分の違いに屈せず自分の心・芯を持った好感が持てる人物像であったり、富よりも人の優しさや人を想う気持ちの尊さに焦点が当てられていたりと、苦しい中でも踏ん張り精一杯生きていく人間の内面の美点が際立ち光る秀作だった。
寺子屋に行くお金もなく例え読み書きができなくても、ある事情から声が出せず口に出して想いを伝えられなくても、相手に想いを届ける方法はあるしその思いの強さが一番大切なんだなと感じた。
寛一郎さんと池松壮亮さんが放つ糞(クソ)にかけたブラックジョークが非常にシニカルで皮肉っぽくて思わず苦笑いしてしまったし、富を振り翳す者や貧困を見過ごす政府や国への警鐘にも聴こえた。彼らの緩い会話の中にも、コロナ禍を経てより大きく響くものがある気がする。
古紙や糞尿の売り買いで生計を立て何とか生き延びていかねばならない若者が確かにいて、今よりも遥かに身分の差が詳らかな時代なんだなと。小学生の歴史の授業で少し触れた記憶があるけれど、部落差別を始めとした差別や偏見が未だに残っているのもここが発端なんだなと。これを機にもう少し掘り下げて知識を深めていきたいし、これまで生きてきた国の歴史や現実を知っておく必要があるのではと大いに感じた。
佐藤浩一さんと寛一郎さんの親子の共演、何気ない会話も、親子だと思うとなんだか感慨深いなと感じた。池松壮亮さん、黒木華さんはやっぱり好きだなと再確認。阪本順治監督初鑑賞だったけれど、人の優しさに触れられる素敵な作品だったな。他の作品も観てみたい。
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