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君たちはどう生きるかのlotusのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.3
冒頭5分だけでも、この映画は映画館で見るべき作品ということがよくわかる。

スタジオジブリはその映像の美しさでよく知られており、改めてその点を強調するのも気がひけるが、光の表現、熱による大気のゆらめき、風ではためく髪や着物、人が歩く、走る、落ちる時の重力——アニメの中に確かに自然の物理法則が機能していることを感じる。(たとえ超自然的なことが起きているとしても)

このアニメの絵の描き込み方を見てしまうと、どうしても他のアニメをたまたま目にした時に物足りなく感じてしまう。比べるものでもないのだけれど、感覚が変わってしまうので、見る前には戻れなくなる。

現代美術家の村上隆が、絵が好きな人にお勧めできる映画、と述べていたがその通りだった。

個人的には、主人公が空襲を避けて仮住まいする家の内装が素晴らしかった。戦前に富を蓄えた集落一の素封家の家がどのようなものだったか、垣間見せてくれる。(戦争が始まってどのように没落しつつあるのかも)

当時としては珍しかったであろう、西洋風の調度品(置き時計やテーブル、ワードローブ、ベッド、ゴブラン織のようなカーテンなど)で整えられた洋間、玄関の襖絵、渡り廊下、広々とした日本庭園、離れ——缶詰や煙草、甘い物など、物が不足する部分もあるようだが、豊かな富をそこここに感じさせてくれる。
興味深かったのが、青い染付の模様が描かれた陶磁器の男性用小便器。

現代だと、金持ちのトイレというと、最新式ウォシュレット付の、清潔さや機能性を追求したものか、あるいは分かりやすく金で出来たトイレ、というのしか知らなかったので、用を足す、という目的にそのような美意識が持ち込まれていたことに驚いた。(調べてみると、染付古便器、という総称らしく、1891年の濃尾大震災以降、復興に伴って、トイレが木製から陶磁器製へと移行し、明治半ばから大正の、3,40年という短い期間、流行ったものらしい)

現実の世界の描き込みも素晴らしいが、アナザーワールドの描き込みも興味深かった。

そこでは、世界はいくつかのブロックをバランスよく積み上げることによって成り立つとしているのだが、真っ白な長方形や円柱のブロックを見ていて、ああこれはデッサンの基礎だ、と思った。デッサンの基礎ということは、アニメーションの基礎でもある。

この映画はフロイト的な読み解きもできるだろうが(主人公と母親との関係)、アニメとは何か?アニメと現実の世界の繋がりとは?を考察した作品でもある。

具体的なストーリーは、映画館で確かめてほしい。久しぶりに事前情報なしで映画を見るという経験をしたが、何が起こるのか、どんな話なのかわからず映画を見るというのもよいものだと思う。
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