lotus

ゴースト・トロピックのlotusのレビュー・感想・評価

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
4.0
ブリュッセルに暮らす清掃婦のハディージャ。
ある日、仕事からの帰り道に乗った電車で寝過ごし、見知らぬ駅に着いてからの一夜を描く。
真夜中に見知らぬ街に降り立つ心細さを知っているので、(私も電車を乗り過ごしたことがある)小柄な移民の中年女性がどんな目に遭うのだろうと少し恐々としていたのだけど、恐ろしい事件は特には起こらない。
ただ、真夜中の街をハディージャが彷徨うことによって、そこには様々な人が、生きていることが見えてくる。

閉店時間を過ぎていたが、ハディージャがATMを使えるように開けてあげる若者(最初は少し渋る)、道端で倒れているホームレス、そこにやってくる救急車、夜勤の看護師たちの休憩時間のおしゃべり、病気で入院している患者、雑貨食糧店を営む若いシングルマザーなど。

みんな、真夜中に急に現れたハディージャにちょっとめんどくさそうにしたりするが、しょうがないと言った感じで助けてくれる。

ちょっとした事件といえば、シングルマザーがハディージャを家の近くまで車で送ってくれている最中、娘が男と歩いているところを目にする。2人は公園で座り、何やら楽しそうに話している。
娘の知らなかった生活の一部を覗き見てハディージャはショックを受ける。
そんなことがありながらも、やがて夜がゆっくりと明け、朝の光が戻ってくる。

いろんな人がそれぞれの生活を送っているというごく当たり前のことなのだけど、終電を乗り過ごしたハディージャを通してその当たり前さを見ると、何かささやかで特別なことを垣間見た気になる。

特に何も起こらないけれど、最後に朝の光が画面に戻ってきた時、最初の朝の光とは少し違って見える気がした。
lotus

lotus