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バービーのlotusのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.5
なんで?と思うかもしれないが、この映画は大スクリーン&よい音響で見たほうがよい。
(日本でもIMAXで見られればいいのに)

配信になったらスマホで、という気持ちも分からなくもないが、R•シュトラウスの「ツァラトゥストラかく語き」の音楽と共に幕開ける冒頭のシーン(キューブリックの名作、『2001年宇宙の旅』へのオマージュ)だけでも、映画館で見る価値がある。
(個人的には、ニッキー•ミナージュとアイス•スパイスの「バービー•ワールド」低音を映画館で聞けたのがよかった)

ティーザー動画で見る限り、ピンクだらけの女の子向け映画に見えるかもしれないが、割と古典的な問いを主題とした映画である。

つまり、人間にとって、死ぬとは/生きるとは何か。

何もかも完璧なバービーランドに住む完璧なバービー。昨日も、今日も、明日も完璧な日々を送っている。クローゼットには素敵な服や靴がたくさん詰まっているし、うっかりジュースをこぼしてしまうなんてこともない。

そんなバービーがある日突然、デュア•リパの音楽にノリノリで踊っている最中、「死ぬってどういうことかしら?」という疑問を口にする。
音楽は急にスクラッチ音と共に止まり、他のバービーたちが「何言ってんの?」という表情で定番バービーのマーゴット•ロビーを見つめる。

バービーは、そんな疑問を引っ込め、何かおかしいと思いながらも、また音楽に合わせて踊り始める。
そう。生きるとはある意味、「いつか死すべき私」が生きるとはどういうことか?という疑問•不安を抱えながら踊り続けることだ。

人間的な「実存の不安」が芽生えたバービーは、その謎を解き明かすため、人間世界へ向かう。

そこでバービーは人間世界はバービーランドのように完璧ではないことを知る。
苦悩の表情を浮かべる人、公園でただのんびりする人、年老いた女性。その景色に差し込む自然光。
室内セットで撮られたというバービーランドはとにかくカラフルだが、自然光がない分、陰影のようなものはない。のっぺりとした光に溢れている。バービーたちも、貼り付けたような笑顔をいつも浮かべている。(正確には、永遠に貼り付けられた笑顔、かもしれない)
しかし、人間世界の場面ではその自然光が象徴的に映される。そして、バービーは初めての涙を流す。

バービーは自然光の中にある、年を重ねた女性のことを、ふいに「美しい」と感じる。女性は、ふふっ、と笑って「知ってるわ」という。

バービーが生みの親であるルース•ハンドラーとお茶をするシーンも自然光が印象的だ。ルースがバービーにティーカップを手渡す時、紅茶の入った磁器のカップには陽が透ける。

バスを待つ、お茶をするというごく日常的なシーンに、ルネサンス絵画のような光があふれる。

時間が流れること、変化していくこと、完璧ではないこと。限られた時間の中だからこそ慈しまれる輝きがあることが示される。

こう書くと、ちょっと説教くさいように響くかもしれないけれど、古典的主題に取り組む一方、とにかく笑いを取りに行く脚本になっている。

基本的なフェミニズムの知識やアメリカのポップカルチャーに慣れていないと笑いのポイントがかなり減ってしまうが、90年代から2000 年代に青春を送った人にとって笑えるところが脚本にたくさん練り込まれている。

終わり方もとてもよかった。
足の裏がフラットになってしまったバービーは、ピンクのビルケンシュトックをはいて婦人科に行く。
ヘンテコバービーに、ピンクのヒールを履いてバービーランドに留まるか、真実を知るためビルケンシュトックをはくか、二択を迫られるのだが(マトリックスのパロディ)、リアルなバービーの選択は、可愛さも履き心地も兼ね備えた、ピンクのビルケンシュトックとなったのだ。そして、人間の女性として検診を受けに行く。ここから、人間としてのバービーの人生が新しく始まるというわけだ。
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