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丘の上の本屋さんのfonske0114のレビュー・感想・評価

丘の上の本屋さん(2021年製作の映画)
3.5
世界一美しいと言われるイタリアの町を舞台に、古書店を営むおじいさんが移民の子供と出会う物語。
美しい景色と優しさ溢れる人間関係が描かれるであろうと思い、劇場で見るのを楽しみにしていた。
本をテーマにした作品は他にも個人的には色々見ており、また移民の子どもにお金がないため本を貸し与える、というあらすじも好みなのでぜひ見たかった。

以下ネタバレ感想を。

予想していたのはおじいさんと移民の子の本を通じてのやりとりだったが、それ以上に古書店を訪れる客などとのやり取りが多く、より多層的で良かった。

ヒトラーに興味を持つ男、グラマラスな女性、自分の著書をさがす大学教授、禁書を読みたい神父、入院生活のため本をさがすおじいさん、いつも本を売りに来る男。

とても多岐に渡り、更に隣人のカフェの男性の恋模様と買い取った日記の物語、と話は広がるというより「おじいさんの生活の様々な側面」という軸に深みを加えていくように思った。

ことすれば色んな客が来るだけという退屈な作品になりそうだったが、日記を通じて時間を越え「二人はどうなるのか」というラブロマンス、現実にもカフェの店員と家政婦のラブロマンス、大学教授や本を売りに来るものの再登場に加えて、音楽も良く頻繁に流れているため飽きが来なかった。
特に、カフェの店員の彼はクスッとさせる、いい役だった。


その為か少年との出会いは思ったより深く描かれず、「貸す→感想を聞く」とけっこうドライ。加えて、おじいさん好みの本を貸す+けっこう分厚いものもあり、もう少し徐々に少年の気持ちや成長を豊かにする場面を描いて欲しかった。

また、最後の人権宣言はちょっとユニセフの色が強すぎて物語から浮いているように感じた。少年が貧しいことは想像できるが、差別を受けているなどの辛い境遇もないため主張が強すぎるというか、寧ろ「イソップは同じアフリカ人」という所からもう少し少年に容易く後押ししてくれるようなものの方が物語には合っていた気がする。

本を扱った他の映画作品は、
・ユダヤ人と出会う少女の『やさしい本泥棒』
・夢だった本屋を開く『マイ・ブックショップ』
・OED編纂を描く『博士と狂人』
・高級古書強奪を図る大学生たちの実話『アメリカン・アニマルズ』
と好みのものが多いので楽しみにしていたので、我儘をいえばもう少しユニセフぽさがなければと思った。
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